
技術の変化が激しいIT業界では、「このままでいいのか」「数年後も通用するだろうか」と不安を感じるエンジニアは少なくありません。また、社会全体の不確実性が増すなか、かつてのように一社でキャリアをまっとうする時代は終わり、いま求められているのは自らの意思で道を切り拓く「キャリア自律」です。
2025年9月20日に開催された「iOSDC Japan 2025」では、株式会社リブセンスで転職ドラフト事業部長を務める大倉潤也が登壇。「iOSエンジニアキャリア設計入門 〜“先進性”をキャリアの武器へ〜」と題し、自律的にキャリアを築くためのヒントを語りました。
この記事では、大倉のセッション内容をもとに、キャリア理論の最新動向からiOSエンジニアの市場価値まで、“先進性”を軸にまとめて紹介します。

株式会社リブセンス 転職ドラフト事業部 大倉潤也
エンジニア向け転職サービス「転職ドラフト」の事業責任者。採用する側のハイヤリングマネージャー、そして転職を支援するキャリアアドバイザーという複数の役割も担っており、エンジニアのキャリアと企業の採用支援の両方に多角的に関わっている。
この発表の資料
「iOSエンジニアキャリア設計入門 〜”先進性”をキャリアの武器へ〜」のスライド
みなさん、こんにちは。リブセンスの大倉と申します。
本日は「iOSエンジニアキャリア設計入門」ということで、”先進性”というキーワードを中心にお話ができればと思います。
まず、少し抽象的なお話からさせてください。
最近、「リスキリング」や「キャリア自律」といった言葉をよく耳にするのではないでしょうか?とくに2020年以降、国内でもこうした言葉が積極的に推進されるようになりました。
なぜ今こうした言葉が注目されているかというと、キャリアに対する考え方そのものが変化しているからです。
人材の流動性が高まって1社だけのキャリアという考え方が少なくなり、社会の不確実性が高まって人生を計画的に進めることが難しくなりました。あるいは報酬だけでなくやりがいや自己実現が重視されるようになるなど、さまざまな変化が起きています。

かつてはキャリアというと、一つの企業のなかで出世することを指すことが多くありました。それが時代の経過とともに、組織の枠組みから個人がはみ出してきて、個人が主体的にキャリアを構築する考え方が主流になってきました。
こうした変化のなかで、キャリアというものを考えるにあたって、個人で選ばなければいけない傾向がより強くなっています。
私たちが提唱している「探索型キャリア」という考え方では、大きな方向性は見据えつつも、最終的なゴールよりも少し先の選択肢をそれぞれが考えて、きちんと選択をしていくということが重要なポイントになります。
昔と違って、企業が大きな負荷をかけて社員を育成しづらくなっている今、なおさらご自身でどうキャリアを作っていくかが求められており、これらを総称して「キャリア自律」という言葉に置き換わっているのです。
## 2. ITエンジニアという職種の“先進性”:変化の速さと「一次情報」
次に、ITエンジニアという職種が持つ”先進性”についてです。
これはみなさんも実感されていると思いますが、エンジニアの特徴として「オープンさ」という点が挙げられます。オープンソースという言葉もそうですし、新しい技術を試した方がアウトプットを出し、コミュニティで情報が循環していく。このサイクルが非常に速いというのは、他の職種に比べても先進的な部分です。
ただ、それゆえにエンジニアの方が向き合うべき変化は非常に多い状況となっています。

技術そのものの変化(レガシーになるのではないか?など)もそうですし、とくに生成AIが発達したなかで、求められるスキルのバランスも変わってきています。
さらに、役割の変化や、ご自身のライフステージの変化など、向き合うべきものが本当に多いです
生成AIの進化がものすごく早くて、全部の情報を正確に拾いにいくのは正直難しいという状況ではないでしょうか。
だからこそ、このオープンさに起因する変化の速さや情報の多さを認識した上で、「何を拾いに行くのか」「誰から拾うのか」といった一次情報の取捨選択を行っていくことが、みなさんのキャリアにおいてすごく重要なポイントになってきます。
では、ここからより具体的に、iOS/モバイル技術の”先進性”について私たちが運営する『転職ドラフト』のデータを使ってお話させてください。

これは転職ドラフトスカウトで提示された年収の推移を表しています。
青い線がSwiftの経験を持っている方の平均提示年収、赤い線はサービス全体の平均提示年収です。
サービス全体と比べて、Swift経験者が一貫して上を行っているのが分かります。2024年では863万円に達しており、やはり他の技術に比べて評価部分が先を行っていると言えると思います。
では、なぜ平均提示年収が高いのでしょうか。

こちらが一般的なバックエンド技術(PHP、 Go、 Ruby)とSwiftの参加ユーザー数を比較したものです。ご覧いただいたとおり、一番下の青い線がSwiftですが、他の言語に比べてiOSエンジニアの参加者数が少なく、希少であることが前提としてあります。
ただ、希少なだけでは年収は上がりません。企業からの需要があるかどうかが重要です。
実のところ、iOSだけに限らず、モバイルアプリエンジニアそのものの需要も高まっています。

こちらは、参加ユーザーの使用技術を「Swiftのみ」「Flutterのみ」「両方」で分けたグラフです。2020年以降、この真ん中の紫の部分、両方使える方の割合自体も増えてきています。
クロスプラットフォームであるFlutterの勢いが増加しているのは、私たちのサービスのなかでも明確な傾向として見えています。
では、企業側の視点ではどうでしょうか。

これが企業がその方に対して声をかけた数、つまり「指名(年収付きスカウト)数」の推移です。
2023年はエンジニア採用においてとても大きいターニングポイントで、外部の調達環境の変化やAIの影響などで、採用動向が非常に二極化しつつあります。
ただ、そのような状況のなかでも、このSwiftやFlutterの技術を持った方というところだけ切り取ってみると、需要としては変わっていない(落ちていない)ということが言えると思います。2024年において、この2つの技術だけで全体の指名数の16%を占めていることからも、その需要の高さが分かります。
最後に、モバイル技術の”将来性”についてです。
みなさんのキャリアにおける変化としては、技術だけでなく事業ドメインや企業のフェーズ、開発リソース、そしてアプリで提供したい体験など、さまざまなものがあります。
だからこそ、ドメインや事業のフェーズにあわせて、どこを共通化して、どこをネイティブにしていくか。その選択がそのままiOSエンジニアとしてのキャリア戦略に繋がると言えるでしょう 。

とはいえ、このiOSと言われる技術の強みは、私が申し上げるまでもなく、マルチプラットフォームを始めとした技術スタック全体の一体感とマーケットにおける存在感です。
Appleの決算発表でも宣言されていますが、アクティブデバイスは23.5億台、アプリ経済圏は1.3兆ドルと、届ける相手が圧倒的に多い。この強力な基盤があるという点に関して言えば、他の技術に比べて、キャリアとして向き合うべき変化が少し少ない、というのは大きな利点として言えるのではないでしょうか。
大倉のセッションの後には、参加者からキャリアに関する鋭い質問が寄せられました。
大倉:サービス側の努力不足は前提としつつ、市場の採用ポジション数としてバックエンドの方が多い傾向にあるのは事実です。一方で、アプリエンジニアの需要は依然として高く、結果として1人当たりの競争率が高くなり、年収も上がりやすい状況にあります。そのため、そもそも希少性が高く転職市場に出てきづらい(=参加者が少ない)という特性があるのではないかと私は感じています。
大倉:転職ドラフトでは提示年収に対して90%までは保証するというルールを設けてはいますが、それでもやっぱり、期待値が高いという声は正直あります。 そのため、期待値が高すぎると感じた際に、エンジニア側から企業へ「再提示リクエスト」(金額を下げてほしいなど)を送る機能も設けています。
私たちが一番大事にしているのは、年収を吊り上げることではなくミッションと期待値をすり合わせることです。転職活動ではお金の話が最後になりがちですが、重要だからこそ先に提示し、そこからちゃんと期待値とミッションを擦り合わせましょう、というのがサービスの設計思想です。
今回のセッションで紹介された「iOSエンジニアのキャリア設計において重要なこと」は、以下の3点でした。
そしてセッションの最後に紹介したのが「弱い紐帯(ちゅうたい)の強み」という理論。
家族や親友などの強い関係よりも、知り合い程度の“弱く緩やかなつながり”のほうが、新しい情報や機会をもたらすという考え方です。
「今日この会場こそが、最新の一次情報が集まる場所です。ぜひ、気になるスピーカーに声をかけてみてください」
ー大倉 潤也
キャリアに迷ったときは、まず勉強会やカンファレンスに足を運んでみる。新しい情報と人に出会うことが、次のキャリアへの第一歩になるはずです。
転職ドラフトでは、そうしたエンジニアの学びの場を支援するため、コミュニティへのビールスポンサーなども行っています。まずは小さな一歩を踏み出し、自身のキャリアの選択肢を広げていきましょう。
転職ドラフトスカウトについて
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転職ドラフトのビールスポンサーについて
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