最強将棋AIを支える技術が目指す未来、AIは人類をどう変えるか?注目のHEROZにインタビュー

2016-09-14 18:00

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いつか人工知能が、人類にとって代わる時代がやってくる――SP映画や小説、アニメで何度となく描かれてきた夢の世界が、にわかに現実味を帯びはじめている。
急速に進化するAI分野において、圧倒的な存在感を誇るのが、HEROZ株式会社だ。同社のエンジニア・山本一成氏が手がける将棋ソフト・Ponanzaは、先日行われた第1期電王戦で山崎隆之叡王を撃破。今や最強将棋プログラムの名をほしいままにしている。さらに、そのPonanzaを組みこんだ同社の将棋アプリ・将棋ウォーズは会員数270万人を突破。他の追随を許さぬ人気ぶりだ。
HEROZでは、これまで培った人工知能技術を、今後はFinTechなど他分野へも積極的に応用していくと言う。果たしてその先にどんな未来が待っているのか。HEROZ開発部長・井口圭一氏と、人工知能エンジニア・平岡拓也氏に話を聞いた。

HEROZ株式会社 執行役員 開発部長
井口 圭一(いぐち・けいいち)
大学院修了後、大手IT企業に研究職として入社。7年間の勤務を経て、ゲーム系ベンチャーの立ち上げに参加、開発部長を務める。その後、大手IT企業に勤めていた当時からの知人であるHEROZ代表の高橋氏との縁をきっかけに、2013年6月、HEROZに正式入社。現在は、同社の開発プロジェクト全般・HEROZの技術全般を取りまとめる。

HEROZ株式会社 マネージャー 人工知能エンジニア
平岡 拓也(ひらおか・たくや)
大学卒業後、半導体メーカーに開発職として入社。プライベートで開発した将棋ソフト「Apery」で、2014年世界コンピューター将棋選手権で優勝を果たしたことから、同年、HEROZに入社。その知見を活かし、同社のAI開発を牽引する。

Ponanzaの指し手を見ながら勉強できるのも、将棋ウォーズの醍醐味です。

Q:将棋ウォーズ、すごい人気ですね。

井口: ありがとうございます。おかげさまで対戦型将棋アプリとして現在ランキング1位、老若男女問わず圧倒的な人気を博しております。

Q:数あるアプリの中で1位を獲るってすごいことだと思うんですけど、その要因は何だととらえていますか?

井口: やっぱり開発者が、元奨励会メンバーはじめみんな将棋指しであることは大きいと思います。だから将棋好きのツボがちゃんとわかっている。

平岡: 将棋タイトル戦のたびに将棋の話をするくらい社内に将棋好きが多いです。将棋ウォーズは、将棋好きでないとわからないマニアックな戦法が出たり、玄人にウケるツボを抑えつつ、初心者の方もライトに楽しめるつくりになっています。幅広い層に受け入れられる親しみやすさが人気の要因だと思います。

Q:個人的には、「棋神降臨」(AIが5手自動に代指しするシステム。このAIにPonanzaが使用されている)というアイデアがユニークだと思いました。こうした対戦ゲームでAIというと、てっきり敵として戦えるのかと思ったら、自分の代わりに指してくれるんだ、と。

井口: 棋神を呼び出すことで、全然勝てなかった相手にも勝てる可能性が生まれる。そこにハマッているプレイヤーも結構いるみたいです。なぜこのシステムを採用したかと言うと、ゲームとしての面白さを出すことはもちろん、eラーニング的な楽しみ方をしてもらいたいという狙いがありました。Ponanzaの指し手を見て、なるほどこんな手があるんだと学んでもらえたらいいな、と。

平岡: 実際、「棋神降臨」は実力のあるプレイヤーも積極的に使ってくれているみたいで。Ponanzaの指し手を見ながら勉強ができるのも将棋ウォーズの醍醐味ですね。

井口: 今年の8月からは「棋神解析」と言って、Ponanzaが一局の内容を振り返り、形勢の推移をグラフ化したり、ある局面における最善手を教えてくれたりする新機能も追加されました。今後はより一層将棋上達のためのツールとして楽しんでもらえるんじゃないかと思います。

Q:世界中のプレイヤーから自分の実力に合った対戦相手を自動マッチングしてくれるのもいいですね。ここにもAIの力が?

井口: そうですね。

Q:それは各プレイヤーの対戦成績を見て? それとも棋譜の内容まで評価した上で?

井口: 今は対戦成績を基準に、最適なレベルの方をマッチングしています。

平岡: あとAIで言えば、将棋ウォーズにはPonanzaの他にもいろんな将棋ソフトが使われています。僕が開発したAperyもそのひとつ。これらはすべて対戦用のbotとして動いています。将棋ソフトごとに指し手にも特徴があって、それがいい個性になっている。このあたりの違いも恐らく将棋好きの方なら楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

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プロ棋士の棋譜は参考にしない。独自の学習方法で進化する将棋AIの今。

Q:現在の利用状況は?

井口: この6月に通算対局数が2億局を突破しました。現在も1日20万局以上の対局が行われています。

Q:そんなにも…! ちなみに将棋ウォーズの開発エンジニアって何人なんですか?

井口: 現在は4人ですね。

Q:たった4人ですか?

井口: 現在は開発もインフラまわりもすべてこの4人で担当しています。

Q:すごい…。

井口: これでも多い方なんです。最近、大規模な改修が終わったばかりなんで。

Q:これだけ成長中のアプリを4人で支えるって相当大変な気がします。最近はプロ棋士の間でもPonanzaを使ってみたいとおっしゃる方が増えているじゃないですか。この変化をどう受け止めていらっしゃいますか。

平岡: コンピュータ将棋はこれまで中終盤力の強さで勝っていて、序盤の構想はあまり評価されていませんでした。それが、今はプロ棋士の皆さんから見ても序盤が良くなって評価していただけているということなのかと思います。

Q:優勝すれば第2期電王戦への出場権が与えられる第2期叡王戦に羽生善治三冠がエントリーをされました。もしかしたら羽生さんとの直接対決も実現するかもしれませんが…。

平岡: まだどうなるかわかりませんので、現段階では何とも言えませんが、ただ当社の将棋ソフトに関して言えば、学習方法も随分変わってきていて。昔はプロ棋士の棋譜を参考にしていたんですけど、今は自分の考えた手を自分で良かったのか悪かったのか判断し、学習していくという方法に切り替わっています。プロ棋士とまったく違う方向に進んでいるので、もしも対戦すればどんな戦いになるかは楽しみですね。

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FinTech、インダストリー4.0、ヒューマンリソース。無限に広がるAIの可能性。

Q:では、御社の事業についてのお話を。現在、将棋ウォーズ以外ではどんなゲームを?

井口: CHESS HEROZ(チェス ヒーローズ)にBackgammonAce(バックギャモンエース)、あとは今年リリースしたポケモンコマスターなどですね。いずれもAIを活かした対戦型のボードゲームです。ボードゲームだと、将棋とゲームの形式が似ているので、技術的にも応用しやすいんですよ。

Q:ゲーム以外では、FinTechの分野で、野村証券さんとの株価予測システムの共同開発が話題になりました。あれはどちらからもちかけたんですか?

井口: 先方から何かAIを活用できないかとご相談をいただいたのがきっかけです。いろいろな部署の方とお話していく中で、最も事業として可能性が高かったのが、株価予測システムでした。AIそのものを弊社が開発し、エンジンとして先方に納品しました。

Q:株を注文する際、数分後に株価が下がるなどの予測アラートが出ると聞いています。こうなると、いよいよこれまでアドバイザー的な役割を務めていた人たちがAIに仕事を奪われることになりそうですが。

井口: どうでしょう。基本的にどうAIと協業するかという話だと思います。メタなところの判断はやはり人間の仕事になるでしょうしね。AIが広まったとしても、必ずそこには人間がカバーすべき領域が生まれる。だから人間の仕事がなくなるということはないと思います。ただし、今までと変わらずずっと同じ領域の仕事だけをしたいという人は、立ち位置を奪われるかもしれませんね。

Q:FinTechの分野では、今後、AIを活用してどんな取り組みを行う計画ですか?

井口: 例を挙げるなら与信判断ですね。いままでは年収や勤め先など決まった情報から判断していましたが、AIなら人間が扱いきれないような多岐にわたる情報を扱うことができます。大量のデータから今までよりも、きめ細やかな判断にAIを活用できればいいなと。

Q:それはすごく面白そうですね。FinTech以外に注目している分野はありますか?

井口: ドイツ政府が推進しているインダストリー4.0には注目しています。工場にはいろんな機械が導入され、センサーで測定されていますが、我々から見るとそれらの測定データは宝の山です。今後はAIやIoTを活用して、測定データから業務の効率化を図れたら、さらに面白いことになるんじゃないかと思っています。あともうひとつは、ヒューマンリソース分野ですね。

Q:ヒューマンリソース分野では、どんなことを考えているんですか?

井口: たとえば人材採用や社内の配置転換時のマッチングにおいてもAIは有効だと思います。他のマッチング例を機械学習的に解析した上で、最適な会社やポジションを提示できるようになれば。

Q:まさに人材紹介会社のコーディネーターがやっているような仕事ですね。

井口: そうです。ただこれもコーディネーターの仕事を奪うというよりも、彼らがカスタマーに企業を紹介する際のレコメンドとして活用していただくようなイメージです。同じ人材紹介会社の中でもコーディネーターごとに経験値の差があるわけじゃないですか。まだ入社して間もないコーディネーターがラーニングに使ってくれたらいいなと考えています。

Q:率直にお伺いしますが、今後、AIが浸透していくことで、私たちの生活はどう変わっていくのでしょう。

井口: 基本的には便利になると考えて良いでしょうね。誰がやっても同じ繰り返し作業から解放され、人間の創造性を活かした領域にパワーを投入できる。単調な作業が苦手という人にとっては嬉しい世界になると思います。

平岡: 業務が効率化する分、労働時間の短縮も見込めるのではないかなと。余暇が増えることで、よりプライベートも充実させられるようになると思います。

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機械学習を柱に、世界を驚かすサービスを。

Q:今回転職ドラフトに参加されるわけですが、現在どんなエンジニアを求めていますか?

井口: 今回の転職ドラフトに関していえば、機械学習における最適化の経験があるとか、何かしら解析ができるとか、弊社の人工知能に関わるエンジニアというのが大前提ですね。

Q:最近入社された方々はどんなバックボーンのエンジニアですか?

井口: やはり機械学習をやっていた経験者ですね。入社後、一人にはフィンテックまわりの解析業務を、もう一人には将棋ウォーズの開発運用を担当しています。

Q:入社してすぐにコア業務を任せてもらえるんですね

井口: 全従業員数で40~50名。エンジニアが半数以上のコンパクトな組織ですから、もうコア業務しかありません(笑)。だからこそ、言われたことだけをやる人では務まらない。自分で課題を発見して、その解決策を提示できる方を積極的に採用しています。

Q:そのような志向の部分はどういう手法で見極めていますか?

井口: やはり直接会ってお話して見極めることが一番多いですね。今までどんなことをやってきたのか、これから何がやりたいのか、その答えが具体的で明確な人ほど、最終的に採用につながっている気がします。

Q:福利厚生などでエンジニアにとって嬉しいポイントはありますか?

井口: 予算内ではありますが、パソコンなどの開発環境に関しては入社時に好きなものをお選びいただけます。あとは、書籍については、みんなに必要なものであれば会社負担で購入可能です。直接上長に申告して認められればOK。こうしたフットワークの軽さは小さい会社ならではかもしれませんね。また、提携している外部研修も受講できたりもしますね。

Q:サービスごとにいろんな開発チームがあると思いますが、AIに関する研究開発部門もあったりするんですか?

井口: そうですね。各プロジェクトに横串を通すかたちで、AIメンバーによる人工知能研究所という組織を編成しています。そこでは、月1ペースの情報共有をはじめ、常時、最新の研究事例などいろんな情報を交換しています。

Q:やはり他社のAIに関する動きなど気にされていますか?

井口: それは気になりますね。最近、注目しているのは、言語認識や音声認識に関するAI。ただ、私たちがそういう領域に参入していくということはもう少し先と考えています。あくまで機械学習をメインに、これまで培ったノウハウを活かせる分野で、さらに世界を驚かすサービスをつくっていきたいと思います。

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