エンジニアの評価制度はどうあるべきか?-インタビュー編-

2022-09-01 08:00

エンジニアの評価制度はどうあるべきか?各企業の考え方や取り組みから知る

前編の事例紹介編では各社の評価制度について、主要なポイントをまとめて紹介しましたが、インタビューは各社1時間ずつ、たっぷりと評価制度への熱い思いを語っていただきました。
そのため、まだまだご紹介しきれなかった部分がたくさんあります。

後編となる今回のインタビュー編では、企業側がどのような思いで評価に取り組んでいるか、メンバーとどのように向き合っているかを深堀りしていきます。

GMOペパボ株式会社

  • 2012年
    • 職位等級と給与制度の設計
  • 2015年
    • 評価基準をわかりやすく言語化(アクション評価と職種ごとの評価のあわせ技)
  • 2020年
    • 全社員共通の評価制度を作成
      • エンジニアの評価基準だった「作り上げる力」「先を見通す力」「影響を広げる力」の3軸がベース
      • エンジニアには専用の職位制度がある

現在の全社共通の評価軸に、元々エンジニアの評価で使われていた基準が採用されているGMOペパボ。全社に採用されるほどしっかりと考えられた評価制度について、VPoEの柴田さんにお話を伺いました。

自分の興味に合わせて伸ばせる給与

ーまずは評価制度や職位制度の仕組みについて教えて下さい。

柴田:ペパボでは、職種によって職位制度に違いはあるものの、全体の評価制度は「作り上げる力」「先を見通す力」「影響を広げる力」3つの軸が基本となっています。

エンジニアの職位制度では、プロフェッショナルラインとマネジメントラインを用意していますが、会社全体ではピープルマネジメントという道も選ぶことができるので、自分の進みたいキャリアで給与を伸ばしていける設計です。

会社で用意している給与ラダーの全領域にエンジニアは手を出せるので、ある程度等級を上げて、相応の給与にも手が届くようにしています。

GMOペパボではピープルマネジメントを行う人をマネージャー、マネジメントラインに進んだ人をエンジニアリングリードと呼びます。エンジニアリングリードはエンジニアの1on1はするけど、勤怠とかはマネージャーの仕事という感じですね。

評価では、マネージャーは1/3、エンジニアリングリードは2/3の評価範囲を持っています。エンジニア視点の評価だけでなく、プロダクトや事業視点も加えて他の職種に向けても「こんな事をした」と伝わるように評価しています。

エンジニアが主体となって運用される評価と審査

ーエンジニア視点とプロダクトや事業視点、双方から評価されているんですね。プロフェッショナルラインについてもお伺いしたいです。

柴田:プロフェッショナルラインって、実は立候補制なんです。マネジメントラインは任命もあるのですが、プロフェッショナルラインは立候補しない限りは4等級以上に進めないんです。

立候補者のなかからどう決めるかはシニアエンジニアリングリードのメンバーにすべて任せていて、経営陣は給与に係る最終判断のみ行います。

立候補となるともちろん審査に通らない方も出てくるので、メンバー同士でのふりかえり会や立候補者へのフィードバックの全社公開など、納得感のある形で評価や昇格の証明をするようにしています。

ちなみに、評価のマイナーチェンジもエンジニアリングリードに基本はおまかせしているので、評価する側の「こうしたらもっとよくなるんじゃないか?」という考えによって少しずつアップデートしています。

ー等級が上がるときの評価基準みたいなものはあるのでしょうか?

柴田:実は「これとこれができたら4等級です」という基準はなくて、あえてぼかしているんです。どのような技術や取り組みが他の事業部でも通用するのか、どれくらいの成果を出したらシニアエンジニアとして外でも通用するのかを本人に見つけてもらって、それを達成するために取り組んでもらうという形にしています。

ーエンジニアの方々の主体性を大切にしているのですね。

柴田:ただその分、思考の時間というか評価自体に時間を使いすぎなんじゃないかという議論も出ています。自分がどれくらいの能力を有しているかの説明や、それを評価する人に客観的に伝えることは簡単ではないので。

あとは、「オープンじゃないほうがいいのでは?」という意見もあったりしますね。いろんな意見があるのですべての意見を聞けるわけではないのですが、結果として個々人の市場価値や技術力が高まるのを目的として、今後も評価制度を運用・アップデートしていきたいと思っています。

良くも悪くも評価の資料が全社公開されているので、ナレッジ共有であったり、目指したいキャリアの先にいる先輩の資料が見られるのは、今後のキャリア形成に活用しやすいかなと思います。

評価制度を利用して成長してほしいという思いで制度を運用しているからこそ、淡々と事業と技術を伸ばしていける人が給与をもらって上位の等級になれるっていう仕組みを用意しています。

株式会社クイック

  • 2017年
    • デザイナーやエンジニアが集まるWeb事業企画開発室が発足
      • 評価制度は人材コンサルタントがつかっていたものを利用
        • 同じ等級で評価ごとに絶対値で給与が決まっていた(例:B評価 ◯◯◯万円/S評価 XXX万円)ため、S評価を獲得したあと次回がA評価でも給与が下がってしまう仕組み
    • 3年半ほどの間にヒアリングなどを行い、少しずつ評価制度を作っていった
  • 2021年
    • Web事業企画開発室の評価制度フルリニューアル
      • 100%達成のB評価以上で給与が上がる仕組みを採用

専門職種向けの評価制度をフルリニューアルした株式会社クイック。評価制度作成時の工夫やリニューアル後の様子について、ゼネラルマネージャーの中平さんと、エンジニアリングマネージャーの桃原さんにお話を伺いました。

技術だけ伸ばしたい人でも年収1000万円まで目指せる設計

ーまずはリニューアル後の評価制度について教えて下さい。

桃原:弊社では、成果(目標を立ててそれに対してどれだけ達成したか)と能力行動特性の2軸で評価しています。能力行動特性は大きく4項目に分かれていて、そのうちの一つが専門的な知識スキルという職種ごとに定められた評価軸となっています。

「エンジニアのステージ1ではこういうことを求めます」という基準があり、さらにそのなかでプログラミングレベルがどのくらいかや設計ができるかなどの「17項目×各ステージ」のマトリクスになっています

ーステージごとの給与帯は公開していますか?

中平:全体に公開しています。ステージは途中からマネジメントラインとエキスパートラインに分かれるのですが、それらのラインに入る前、技術だけ伸ばしたい人でも年収1000万円を目指せるように設計されています。
それ以上の年収を求めるのであれば、管理職側の思考や言動(プロジェクトのリードやメンバー育成)が求められるという感じです。

もちろん、スタンス面などで周囲によい影響を与えていて成果も上げているメンバーは積極的にリーダーなどに抜擢しています。年功序列ではないので、年次関係なくどんどん昇格しますよ!

ーかなり大きなリニューアルだったと思うのですが、エンジニア独自の部分をつくるにあたって、悩んだポイントなどはありますか?

桃原:エンジニア特化の評価項目に何を入れればいいのかとても悩みましたね。ジェネラリスト志向のエンジニアを集めたい・育てたいという思いがあったので、この項目にそって成長していけば、私達が求めるエンジニア像に近づけるという視点から逆算で考えました。

そういった思いもあるので、評価を担当する方には「評価制度は評価のものさしではなく、あなた達にこうなってほしいというWeb事業企画開発室からのメッセージだよ」という気持ちで評価してほしいと普段から伝えています。

プロジェクトの成長と自身のスキルアップが両立できる目標設定ができるようになってきている

ーなるほど、求める人物像からの逆算で作られたのですね。実際に運用をしてからのエンジニアの様子はいかがですか?

桃原:100%達成であれば給与が上がるというのは今回のリニューアルでも特に大きな変更点なのですが、目標をどこに置くかはみなさん苦戦しているようです(笑)
各個人が自発的に設定した目標に対し、「これくらいが100%達成ラインかな」とすり合わせをしながら決めていくのですが、エンジニアからは「やってみないとわからない」という声がよく聞こえてきます。

もちろんいいこともありました!リニューアル後、何回か評価を行ってきて嬉しかったのは、メンバーの目標の作り方がうまくなってきていることですね。

たとえば、品質を上げるためにテストコードを増やしていったり、テストコードをかけるエンジニアを増やす体制づくりのためにドキュメントを整理していったりというように、行動に落とし込むことができるようになってきているんです。

さらに、プロジェクトの目標達成と自身のスキルアップを両立して考えられる人も出てきました。趣味で書いていたテストコードの知識が評価における目標設定のために活用できることで、組織が目指す方向性と自身のやりたいことが擦り合ってきているようです。

ー目標設定ってただでさえ難しいのに、100%達成で給与が上がるとなるとたしかに難易度はグッと上がりそうですね。目標設定後の様子はいかがでしょうか?

中平:2021年のリニューアルは以前の評価制度の課題改善なので、いい方向には向かっていると思います。

MBOで目標が明確になりわかりやすいという好評な意見はあるのですが、僕の視点でいうと遊びがなくなったと感じることもあります。

たとえば目標達成が厳しい場面で、自分の目標にしか意識がいかなくなり始めたり、周囲と連携してクリエイティビティを発揮するような余裕がなくなったりということがあるので、「遊び」も目標に組み込めるようにしたらいいんじゃないかなどといまは考えています。

成長に繋がらない評価に意味はない

ー現在の制度を変えてみて、キャリア形成などに役立っていると感じる部分はありますか?

桃原:そうですね、エンジニア独自の評価基準を整備したことで、自身の強みや弱み、伸ばせる部分の見える化はしやすくなったと思います。

評価に使われる17項目のマトリクス表に今の自分のレベルを色付けしてもらったことがあるのですが、ステージ4のエンジニアであれば本来はどの項目もステージ4の部分に当てはまるのが理想です。しかし、実際に色を塗るとバラけてしまう。得意不得意が可視化しやすくなったのは、目標設定にも役立っていると思います。

1on1などでの対話の入り口として、このマトリクス表は活用されています。

ー普段から、評価制度をメンバーの成長に役立てていらっしゃるんですね。

中平:成長って日々の積み重ねだと思うので、そのあたりは大切ですよね。

もちろん査定のときには、いつも以上に念入りに時間をかけて1対1でフィードバックを行います。
私たちの場合は、まずは本人から「こういうところが強みでこういうことができました、でもここが課題だと思っています」とプレゼンしてもらったあとに、それに対して「確かにそうだね」「そこは自己認識と違うと思うよ」と対話をしながらでしっかりとフィードバックしていく形式です。

ただ給与を決めたり、能力が高いか低いかという評価ではなく、マネジメントツールとしてその人が今後いかに成長していくかという考え方で活用しています。

株式会社ユーザベース

  • 2010年
    • 技術力を上げれば給与があがっていく状態を作りたいという思いを元に、評価制度を作成
  • 2021年
    • 評価基準(コンピテンシークライテリア)のほとんどすべてに手を入れて内容を改定

ユーザベースでは、現場のエンジニアが評価基準の改定などにも関わっています。今回は、評価基準の改定に携わった現役エンジニアの西村さん、大瀧さん、廣岡さんにお話を伺いました。

エンジニアが意思を持って改善していく評価基準

ーまずは評価制度の仕組みについて教えて下さい。

廣岡:弊社は360度フィードバックを採用しています。四半期ごとにチームメンバーがお互いと自分自身に対してフィードバックを書きます。

フィードバックはどの職種でも、エグゼキューション・エッジ・バリューの3軸で行われます。特にエンジニアはその3軸それぞれに対してコンピテンシークライテリアという評価基準を細かく設けています。

集めた情報をもとに、別途選ばれたメンバーが個々のフィードバックをまとめるフィードバック会議が開かれます。その際、組織全体で見たときのフェアネスなども議論され、最終的なフィードバックやタイトルを決めます。

エグゼキューション=業務における実行力
ビジネスサイドとのコミュニケーション、チームで積極的に動いて、運用をこなしたりフローを改善できる、エンジニア同士が1on1を通して他のエンジニアを成長させることができるなど


エッジ=純粋な技術力
業務のなかでの発揮だけでなく、ブログで難しいことを公開するなども評価対象となる


バリュー=会社の価値観+開発チームの価値観
The 7 Valuesに沿った行動ができているかだけでなく、エンジニア自身も「XP (エクストリームプログラミング)で大切にされている5つ価値観」も大切にしており、それらのバリューに沿っているかという部分で評価する

西村:コンピテンシークライテリアの改定は、四半期毎に行われていて、私達のような現役のエンジニアが行っています。

2021年の大幅アップデートでは、コンピテンシークライテリアを変えたいと手をあげたメンバー同士で議論を重ねて、現状で最適だと思う基準を決めました。

たとえば、SRE観点だといままでインフラアーキテクチャは入れていなかったけど今後は重要になるので、観点として追加したり。

この大幅アップデートでは、評価がしやすくなったという声や、採用のときの年収提示がこれまで以上にしっかりできるようになったという声もあって、嬉しかったですね。

ーエンジニア全員に影響する基準を変更するのは責任重大ですね。悩むことも多かったのではないでしょうか?

西村:コンピテンシークライテリアの変更は、給与に直接的に影響を及ぼすので、既存のメンバーに当てはめたらどうなるかを何度もシミュレーションしました。

高い能力を持った人は高いタイトルのままになるべきですし、いままで評価できてなかった人が、新しい観点が追加されることによって正当に評価されてタイトルが上がりやすくなるという状態を叶えるための調整は大変でしたね。

また、私たちが意図したとおりにエンジニアの皆さんがフィードバックを書けるかも難しいところでした。うまく意図が伝わっていない場合は、次の改定のときに文言の修正などを行いながら改善していきます。

誰もが納得できるようにするため、フェアネスを何よりも大切に

ー360度フィードバックでは、コンピテンシークライテリアの意図を伝える難易度はぐっと上がりそうですね。フィードバックを行ってもらう際に意識してほしいことなどは伝えていますか?

大瀧:できるだけ、恣意性が入らないようにしてもらっています。客観的な事実に基づくフィードバックが絶対なので、フィードバック会議でも感覚的な意見は評価に使いません。

背景がわかりにくいフィードバックがあれば本人をお呼びしてヒアリングをするなど、フィードバック会議でも実際の事象をもとにした評価を徹底しているので、360度フィードバックを書いてくださる方にも、なるべく事実を書いてくださいとお願いしています。

これを徹底してやっていることで、とにかくフェアネスを大切にしています。

ー評価制度は従業員のキャリア形成という面でどのように役立っているかを教えていただけますか?

廣岡:ユーザベースのコンピテンシークライテリアは、我々が考える「開発組織で評価したいエンジニア像」を意識して作っています。必ずしもコンピテンシークライテリアに従って個人が成長すべきとは考えていません。自身がどういった方向で成長すべきか迷ったときや目標設定のときの指標として使えます。また、コンピテンシークライテリアにしたがって成長した際に、社外でのエンジニアとしての市場価値も自然と高まるように意識して設計されています。

会社を個人が成長していける場にしたいという思いがあり、その延長線上でエンジニア評価制度やコンピテンシークライテリアができあがっています。

「個人が成長する場」としていい環境になるように、今後もコンピテンシークライテリアや評価制度をアップデートしていければと思っています。

市場価値も知ってキャリアの選択肢を広げよう

それぞれの企業で特色はあるものの、どの企業も求める人物像を評価制度に反映したり、評価制度を従業員の成長ツールや支援として機能させていることは共通しています。

会社の規模や経営状況、実際の仕事内容などが異なる中で、評価制度も会社によって異なり、変化していきます。さらに現職での評価がそのまま市場価値であるかどうかは、また別。
自分の実力を底上げしたりキャリアプランの選択肢の幅を拡げていくためには、市場からの評価も参考にしていくことが大切です。

転職ドラフトでは、エンジニアが正当な評価を得られたり、市場価値を知ることができるように、指名制度・実力を伝えるためのレジュメの審査・ルール違反の厳しい是正などを行っています。

市場価値を知りたいという理由で参加する方もたくさんいらっしゃるので、1度参加してみてはいかがでしょうか?

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