エンジニア組織開発の一環でテックブログを始めたものの、
「エンジニアになかなか書いてもらえない」
「業務が忙しいとブログ更新が止まりがち」
というテックブログが続かない問題に悩む企業の担当者の声をよく見かけます。
続かないといわれるテックブログを継続し、プロダクト・組織の成長へ活かしている企業は、どのように運営しているのでしょうか。
テックブログ運営に意欲的に取り組まれている企業にフォーカスしたインタビュー記事(連載予定)をお届けします。
第1回は、2018年の立ち上げ当初から、毎年30記事以上のペースで継続してテックブログを更新しているスタディプラス株式会社。
「運営体制の構築と運営のコツ」
「目標やゴールをどう描くか」
「アウトプットの促進」
の3つの切り口で、スタディプラスの大石さんにお話を伺います。
■インタビュイープロフィール
スタディプラス株式会社 / ソフトウェア事業本部 開発部 部長/VPoE
大石 弘一郎さん
SIerで15年ほどtoB向けのシステム開発を行いながら、個人でiOSアプリ開発も行う。
その後、教育系スタートアップにiOSエンジニアとして転職し、2019年にスタディプラス へ参画。モバイルクライアントグループのリーダーを経て、現在はソフトウェア事業本部 開発部 部長/VPoEおよびエンジニア採用責任者も兼務。
■スタディプラス 開発者ブログ
https://tech.studyplus.co.jp/
運営体制の構築と運営のコツ:エンジニアの慣れ親しんだツールや手法で、負担なく発信を続けられるようにすること
ーーまずは、テックブログを始めたきっかけについてお聞かせください。
大石:2018年にエンジニア採用に注力していくタイミングで始めた採用施策の一つが、テックブログだったと当時のメンバーに聞いています。
ーーテックブログの運営の流れと、運営メンバーの役割について聞かせてください。
大石:テックブログ運営メンバーの役割は、
スケジュール管理
リマインドツール管理
進捗確認
の3つです。
スケジュールは、隔週に1人のペースで年度内にいつ誰が書くかを決めています。
以前はチーム単位でローテーションを組んでいましたが、チーム人数によって執筆頻度にバラつきが発生するという課題がありました。そのため、現在はチームではなく個々のメンバー単位で順番を決めています。
もし、順番となった週のブログ執筆が難しい場合は、運営メンバーとスケジュールを相談できる体制となっています。前後の人と順番を入れ替えたり、1週間後とか、1ヶ月後に公開を延期するなど、柔軟に調整しながら運営しています。
隔週といっても、ちょっと間が空いてる時期もあったりするので、そこまで厳密に行っている感じではないです。
基本的に下書き提出日、ブログ公開日は月曜日に固定しています。
下書きを月曜日に提出し、1週間でレビューを通して、次の週の月曜日に公開するという流れになります。それを隔週に1回のサイクルでまわしています。
大石:「ブログ執筆の下書きが1ヶ月前に迫りました」とメンション付きのリマインドがタスク管理ツールから自動でSlackに飛ぶように設定しています。
このリマインドの管理もテックブログ運営チームの役割です。
大石:リマインド後も予定通りの下書きが進んでいないメンバーには、やさしく「進捗どうですか?」と個別に確認の声かけをして、必要に応じて公開スケジュール調整も行います。
ーーレビューはどのように行っていますか?
大石:テックブログをGitHubでリポジトリとして管理しているので、下書きを書いたら、サービスの開発と同じようにプルリクエストを作り、ほかのメンバーにレビューを依頼しています。
レビュアーはエンジニアメンバー全員から自動的にランダムで選ばれます。
ーー自分の記事以外でもレビュアーとしてテックブログに関わる機会が全員にあるのですね。
大石:そうですね。ランダムでの選出だけでなく、書いた人が任意でレビュアーを追加できます。
例えば、モバイルアプリのエンジニアがその業務に関する記事を書いた場合は、同じチームのメンバーにレビューしてもらって「技術的にもうちょっとこういう書き方の方がいいんじゃないですか?」というレビューを受けることができます。
ーーブログ執筆におけるルールやレギュレーションはありますか?
大石:会社の信用や信頼を毀損する内容を書かない、技術的に間違った内容を書かない、という最低限の情報の正しさ、信頼性に関わる部分のルールだけは設定しています。
それ以外では、あまり細かなレギュレーションを決めず、各自の主体性に任せて、ランダムで選ばれた人と、任意の追加の人のレビューが通ったら公開しています。
ただ、文章の読みやすさを最低限確保する目的で、予め定めたルールで文章をチェックするLintをGitHub Actionsで実行しています。一文が長すぎないか、同じ助詞を連発していないかなどの機械的なチェックですが、読みやすさの担保として有効に感じています。
目標やゴールをどう描くか:目指すのは開発カルチャーや組織の情報発信チャネルであり続けること
ーー現在のテックブログ運営の目的はメンバーにどのように伝えていますか?
大石:テックブログをやる目的は、立ち上げの2018年から同じです。
大きな目的としては採用活動への貢献があります。
その他にも以下のような事が目的として上げられると思っています。
- スタディプラスという会社の認知度・理解度のUP
- 求職者への期待値調整。実際に入社したがギャップがありガッカリするといったことがないようにする
- 採用活動中以外での定期的な外部への発信
- メンバーが発信を意識した業務への取り組み
- 社内でのナレッジ共有
- 技術的チャレンジの促進と技術力の向上
引用:スタディプラス開発者ブログ始めました - Studyplus Engineering Blog
基本的には「エンジニア採用」が目的です。
テックブログを通して、こういうことができる会社なのか、入社したらこんな仕事ができるのかなどが伝わればいいなと思っています。特に採用希望の方々には、期待値、目線を合わせるために読んでもらいたいです。
そのほか、社内のメンバーもレビューや公開後に読むことで、メンバー同士の相互理解やナレッジ共有、技術力をお互いに磨き合えるよう意識しています。
ーー目標設定や、定量的なKPIの設定はあるのでしょうか?
大石:話題になることを狙って何かを書くのではなく、ブログをコツコツと継続して日々のスタディプラスでの開発の取り組みが伝わること、自社のブランドの情報発信チャネルとして常に開かれているという状態を目指して運営しています。
そのため、どれだけ見られたかを測るようなKPIはありません。それよりも、スケジュール通りに公開されることを目標として設定しています。
とはいえ、スケジュールの正確さよりも継続して書かれている状態であることが重要です。
スケジュール調整は柔軟に対応し、最初に決めたスケジュールの厳守を強いるわけではありません。
ーーテックブログの成果で個人やチームの評価をすることはありますか?
大石:以前は、評価基準を定めて全員の評価へ反映していたようですが、現在ではテックブログの成果でチームや個人を直接評価するということはやっていません。
一部、個人目標として採用貢献を掲げ、その一環で「テックブログでこういうテーマの情報発信をします」という目標を立てるメンバーはいます。ブログでの情報発信の成果として、採用に影響するくらい大きな注目を集めたことを評価することもあります。
ーー「大きな注目を集めている」とみなされる基準はありますか?
はてなブックマークでブックマークが何十件もついたり、Twitterで何十回ものリツイートやシェアがなされるような規模で広がった場合に、採用貢献の評価のポイントになることがあります。
特に「はてブがn件以上」「リツイートがn回以上」などと評価対象になる定量基準を明確に定めているわけではなく、ふんわりとしています。
アウトプットの促進:学びに挑戦できる組織風土を活かした発信コンテンツや仕組み
ーーブログを公開し続けられる背景としては、どんな組織風土を大切にされているのでしょうか?
テックブログに限らず、スタディプラスのバリュー「Dive to Learn」にも掲げられているとおり、学習を第一と考え、自ら学びを通して変化することが重要だという価値観が全社に浸透しています。
いろんなことを学んでいくこと、学んだことを共有することについて、業務のなかでも充分に時間を取ることが推奨されている風土があります。
ーー業務時間内での学習とは、どのようなことを行っていますか?
大石:例えば、Ruby on Railsで新しい社内向けの管理画面を作る際に、Hotwireという仕組みを使った開発に取り組んだ事例があります。Hotwireは、Rails7で標準となった新しいアプローチです。
Rails 7 + Hotwireで実用的なSPAを作ってみた - Studyplus Engineering Blog
Hotwireを使わなくても要件を満たした開発はできたのですが、どうせだったら新しいものを使ってみようと、新しく学習することに挑戦し、キャッチアップしながら作ってみた、という内容が記事に書かれています。
実際の本番環境でHotwireを使った事例として、社外の多くの方から注目していただくことができました。
ーー開発業務で忙しいエンジニアがブログを書く時間をどうやって確保していますか?
開発業務とブログ執筆の双方に無理が生じないように、調整しています。
ブログ執筆の当番がまわってきた週には、書く時間の見積もりを行って、残った時間を業務に使う、という調整を各チームでしています。
テックブログの重要性、次の順番が誰であるか、執筆には一定の時間がかかることがエンジニア組織全体で共有されているため、どのチームでもスプリントの計画などに予め組み込むようにしています。
ーーブログで何を書いたらいいか困る場合などには、どのようなフォローをしていますか?
大石:もし、困っているメンバーがいれば、周囲に相談やフォローができる体制があります。チーム内の毎週のミーティングで、
「次は自分がブログを書く順番が回ってくるけれど、どういうテーマで書いたらいいですか?」
「こういうの書いたらどうですか?」
というやりとりが自然にされていますし、ブログの書き方や進め方で困った場合などは、周囲のメンバーがフォローしています。
ーー開発をするために入社したのに、なぜブログを書かなくてはいけないのか?のような声が挙がることはありませんか?
大石:そういう疑問の声があがったことはないですね。
エンジニアの人数が一桁の頃からブログを継続しているので、社内のエンジニアのほぼ全員が、テックブログでスタディプラスへの魅力を感じて入社した実体験の持ち主だからかもしれません。
なぜ書くか、なぜ重要かを細かく伝えていなくても「テックブログを運営している開発組織」であることを理解していたり、自身もその仲間になるんだという当事者意識を持って入社しているので、疑問を感じることは少なそうです。
ーー「エンジニア採用」を目的に掲げたテックブログで、実際に採用への効果を実感できるのはどんなときですか?
大石:カジュアル面談のときに、当社を知ったきっかけや、カジュアル面談の時間をもらえた理由として
「テックブログの記事を読んだから」
「以前読んだ記事を覚えていたため興味を持った」
「どの記事かわからないけどテックブログを読んだので社名を知っていた」
と話してくれるときは、ブログを続けていてよかったなと思います。
なかには「SREのチームが書いた記事で書かれていたことをやってみたいから選考に進みたいです!」という強い思いを最初から抱いてくれることもあります。
話題に上がった記事は、SREのスタディプラスを支えるインフラ技術(2021年)の記事です。この記事は2019年から毎年シリーズ化されているもので、このような声があがるほど人気があります。
スタディプラスを支えるインフラ技術(2021年) - Studyplus Engineering Blog
スタディプラスを支えるインフラ技術(2020年) - Studyplus Engineering Blog
スタディプラスを支えるインフラ技術(2019年) - Studyplus Engineering Blog
ーーこの記事のどんな点がエンジニアを惹きつけるのでしょうか?
大石:この記事には、当社の運営する学習管理「Studyplus」のシステム構成や、利用中のAWSのサービス、そのほか、SREの1年間の取り組みが全てまとめられています
新しい技術や機能の積極的な本番導入の様子がブログで詳しくわかると思います。
候補者の方が働いている環境ではなかなか使われていない新しいことに、スタディプラスならチャレンジできるという点が、特に魅力として感じられやすいようです。
ーー(ブログとは別になりますが)新しい技術や機能の本番への実装が進めやすいのでしょうか?
大石:会社として技術的な投資に理解があるため、新しい技術かつ、将来的に主流になる可能性があるものであれば、積極的なチャレンジが歓迎されやすい組織風土があります。
また、誰か特定のエンジニアがシステム構成や技術選定を担うのではなく、メンバー間で相談して決めていくことができます。
そのため「新しい技術が出てきたからこういうの使ってみたいね」と専門性を持ってそれぞれの視点で新しいことをやってみる、というTryがしやすい状況になっています。
全員が技術選定に関われるから、新しいことを導入したり、お互いに相談するための学習が促進されやすいのかもしれません。
もちろん、社内で使われている全ての技術が必ずしも最新というわけではありませんが、エンジニアは新しい技術に興味があると理解されているので、組織としても新技術の導入のチャレンジを推奨しています。
ーー採用広報について、テックブログ以外も含め、どのように運営していますか?
大石:テックブログの立ち上げ当初はブログが唯一の情報発信の手段でしたが、Podcastをやってみる、エンジニア向け発信用のTwitterアカウントを運用するなど徐々に発信が広がっています。
現在では、18名のエンジニア組織内に採用広報チームを設置し、
- テックブログ
- Podcast
- カンファレンスやイベント協賛
- Twitter運営
4つのチームそれぞれに専任者を置いています。
Twitter:Studyplus Developer (@studyplus_dev) / Twitter
Podcast:Studyplus Engineering Podcast | Podcast on Spotify
ーーテックブログを続けながら、Podcastもコンスタントに更新できているケースをあまり見かけないのですが、Podcastが始まったきっかけと、展開されてきた運用方法を教えていただけますか?
大石:Podcastの配信をやってみたいという1人の有志のエンジニアが2021年の8月にPodcastを始めました。社内では「やってみたいなら、やってみたらいいんじゃない?」という風に、新たな挑戦として歓迎されていました。
実際に始めてみると、ゲストのアサイン、司会、収録、編集、公開まで一人だけで担う体制では、2〜3ヶ月に1回の更新頻度となることがわかりました。
その後、別件として進んでいた「コロナ下での採用広報での発信を強化したい」という全社のエンジニア組織の意向なども合わせて話し合った結果、一人でやっていたPodcastの運営をチーム化し、数人のエンジニアで取り組む体制にしました。
現在では、1ヶ月に1回のペースで配信しています。
参考:ソフトウェアエンジニアによるPodcastの配信 - Studyplus Engineering Blog
ーーテックブログをはじめとするエンジニア採用広報で、これからやってみたいことを聞かせてください。
大石:現在の4つのエンジニア採用広報チームでは、お互いに情報共有をしつつ、運営を継続して進められてはいるものの、何か共通の方針をもって個々のチームの運営に活かすまでにはいたっていません。
今後は、方針を話し合う場を設けてみたり、共通の方針策定を検討し、採用広報チームの一層の連携強化をしたいと思っています。
ーーありがとうございました!
まとめ
スタディプラスさんのテックブログ運営の背景には、学びを推奨している組織文化があり、そのうえに仕組みや環境が構築されている様子が伺えました。
- 自身がブログに惹かれて入社しているから、書く目的や効果が理解できる。
- 新たな学びの本番導入ができるから、書きたいネタができる。
- 業務時間内での学びが推奨されているから、書く時間ができる。
というふうに、文化のうえで、仕組みや環境が組み合わさってワークするからこそ、テックブログを書きやすいサイクルが成り立っているんですね。
次回の更新をお楽しみに!