テックブログ運営に意欲的に取り組まれている企業にフォーカスしたインタビュー記事。
「運営体制の構築と運営のコツ」
「目標やゴールをどう描くか」
「アウトプットの促進」
の3つの切り口で、第3回は、スマートキャンプ株式会社、永井さん、井上さん、瀧川さんの3人にお話を伺います。
■インタビュイープロフィール
スマートキャンプ株式会社 BOXILカンパニー プロダクト本部 プロダクト開発部
永井 貴大(ながい たかひろ)さん
インターネット広告企業に新卒入社。社内ツールの開発に携わり、ユーザへのヒアリングから設計・開発、保守運用まで行う。2021年8月にスマートキャンプ株式会社に入社し、「BOXIL SaaS」開発業務を主に担当。
スマートキャンプ株式会社 BALES CLOUDカンパニープロダクト本部 プロダクト開発部
井上 拓磨(いのうえ たくま) さん
新卒として大手SIer企業に入社後、顧客のWebサイト開発に携わる。開発リーダーとしてチームを先導したり、DB設計、システム設計を経験。その後新規プロダクト開発チームに異動し、そこで自社プロダクト開発に従事。主にAWSを用いたシステム設計やサービス開発に取り組む。
その後、スマートキャンプ株式会社に入社。
スマートキャンプ株式会社 プロダクト統括本部 兼 VPoE室 室長
瀧川 陽介(たきがわ ようすけ)さん
新卒でゲーム系のスタートアップに入社し、エンジニアとしてアプリケーションインフラやデータ分析基盤の構築を中心に3 年間従事。
2018年1月にスマートキャンプに入社。
開発業務のかたわらテックブログ立ち上げなど技術広報も兼任し、現在はエンジニアリングマネージャーとして京都開発拠点設立を担当中。
■SMARTCAMP Engineer Blog
https://tech.smartcamp.co.jp/
運営体制の構築と運営のコツ:書き始めやすくするために、ネタ作りや方向性の言語化に向き合う
ーーまず、テックブログの記事の方針はどのようにお考えでしょうか?
永井:スマートキャンプのことをあまり知らない人や、選考を受けることになった人に、開発組織でやっていることや雰囲気を感じてもらおうという方針でテックブログを運営しています。
その方針に沿って、実際に業務のなかで試行錯誤したストーリーが伝わる記事を更新し続けられるように運営担当の永井、井上の2名がサポートをしています。
ーー「開発組織の雰囲気を感じてもらおう」という方針のもと、「試行錯誤したストーリーが伝わる」記事づくりをしているのですね。どのような背景から記事の切り口が決まったのでしょうか?
瀧川:スマートキャンプはtoB領域の企業のため、提供しているプロダクトやサービスを一般のエンジニアが自身で触れて知る機会がありません。また、toB領域のビジネスには堅い人が多いと思われる傾向があることも採用活動を通して感じました。
そのため、テクノロジーを使ってワイワイと開発している雰囲気や、様々なタイプのメンバーがいることを、テックブログを通して伝えようとしています。
ーーブログを書くスケジュールは、どのように決めていますか?
永井:エンジニア全員が隔週で順番に執筆するスケジュール一覧を、社内で共有しています。新しく入社したエンジニアは、順番を調整してスケジュールに追加します。
ーー「順番が回ってきたけれど、忙しくて書けない」場合は、どのように対応されていますか?
永井:柔軟にスケジュール調整をして、なるべく無理のないように執筆できる環境づくりをしています。
忙しいプロジェクトに携わっていたり、施策のリリース前などで担当の週に書けないことはもちろんあります。そういう場合は、後ろの人と順番を入れ替えるか、公開日を一週間後ろにしてみましょう、と調整をします。
ーー記事に何を書くか、どのように決めていますか?
永井:記事投稿予定の2週間ほど前に、運営メンバーと執筆するエンジニアの3人で相談するミーティングで決定します。
次に執筆予定のエンジニアに「召喚するのでお願いします!」と運営メンバーから声をかけることから、このミーティングは「召喚定例」と呼んでいます。
召喚定例では、何を書くか、どのような切り口で書くか、どのように独自性を持たせて魅力的に伝えるかまでディスカッションして決めていきます。
何を書くかについては、「これを書きたい」という希望があれば、本人の意思を尊重しています。
もし、書きたいネタがない場合は「最近、業務ではどのようなことをしていますか?」という面談のような対話を通して、書けそうなネタを一緒に探しています。
ーーテックブログの運営担当は、スケジュール管理、召喚定例の開催以外にどのような役割を担っていますか?
永井:主な役割は
- レビュー
- 社内告知
- Twitter運用
の3つです。
このほか、相談に乗ったり、仕組みを整えるなど、色々なことをしています。
ーーレビューはどのように行っていますか?
永井:GitHubで記事をリポジトリ管理しているので、GitHub上でレビューをしています。
記事を書く人は、マークダウンで書いた記事をpushして、pull requestを出します。
そのpull requestに対してテックブログ運営担当がコメントを書いて、執筆者に直してもらう、というプログラムと同じような流れでレビューを行います。
ーーレビューの際に、特に気をつけて見ているポイントはありますか?
永井:特に、読みやすさや文章構成の観点でレビューを実施しています。炎上しないか、誤解を招く表現がないかという要素も注意して見ています。
記事のコンセプトを変えるようなレビューはあまりしていません。
ーーテックブログ運営担当として、大変だったことはありますか?
井上:直近では、
「どういう記事が良い記事なのか」
「テックブログ運営担当としてどのような記事を求めているか」
という疑問に対し、時間をかけて向き合ったことがありました。
疑問に答えるためテックブログ運営担当として話し合いを重ね、
- ターゲット:「主に採用候補者のエンジニア」
- 記事の方向性:「普段の業務でやっている内容」
- なぜその内容か:「ターゲット読者に、スマートキャンプの開発組織でやっていることや雰囲気を伝えたいため」
と改めて言語化して伝えたことで、最終的には納得して記事を書いてもらうことができました。
ーーどのような思いから、その問いがあがったのでしょうか?
井上:疑問を持ったのはスマートキャンプとしてのテックブログを初めて書くメンバーだったのですが、何もない野原に放たれたような感じで、書く方向性がわからなくて悩んでいたようです。
個人でブログを書いたことがあっても、企業としての看板を背負って書くテックブログがすぐに書けるとは限りません。
どんなことを書いて欲しいか、何を書いてはダメなのかを言語化して明示することで、書きやすくなる場合がありますね。
目標やゴールをどう描くか:質の高さを追求し、組織や個人の雰囲気・オリジナリティが伝わる記事を全員で発信する
ーーテックブログの運営目的については社内でどのように伝えていますか?
永井:冒頭でもお伝えした「採用候補者の方に、スマートキャンプの開発組織でやっていることや、雰囲気を伝えること」が、テックブログの運営目的であり、方針でもあります。
その方針のもとで運営しているため、特定の目標を追うことや定量的なPVよりも「質を高める」ということを意識しています。
ーーテックブログ立ち上げ当初の運営方針とは異なるようですが、どのような変化があったのでしょうか?
参照:エンジニアブログを開設して1年でなにが起きたかすべてオープンにする - SMARTCAMP Engineer Blog
瀧川:最初に継続することを第一に考えて、週一回の更新を厳守しようと考えました。そのために書く人の負担を減らしたり、多くの反響が得られるように考えたり、インセンティブを設定したり工夫をしました。その反面、運営コストが高くなったり、書く人が偏ったりという課題がありました。
2年目以降はそうした課題を解決しながら、「たくさんのリアクションを獲得するよりも、安定して運用しよう」という方向に舵を切り、エンジニアみんなで持ち回りでやっていく体制になりました。
全員が書く体制でのブログ運営を続けたことで、エンジニアの考え方が「ブログはみんなで書くのが当然だよね」へと徐々に変化しました。
「テックブログがカルチャーとして浸透した」という感じなのかなと思いますね。
永井:カルチャーというとメンバーの高い熱量でがんばって維持しているイメージがあるかもしれませんが、むしろ、メンバーの熱量に左右されたり属人的にならないように工夫された仕組みとして動いている印象を受けましたね。
私が入社したのは1年ほど前でしたが、入社してしばらく経った頃「そろそろ、永井さんがブログを書く順番がきます」と連絡があったときは、自然と受け止めていました。
入社前から全員がブログを書く開発組織であることがわかっていたし、自分が書くタイミングも事前に共有されていたので「分かってたけど本当にくるんだな、じゃあやるか」と自然と受け止めやすかったのかもしれません。
ーーテックブログの運営方針は、どなたが決めているのですか?
瀧川:基本的な方針はブログの運営担当に任せています。
現在の運営担当の永井、井上は3代目で、だいたい1〜2年おきくらいにブログ運営を引き継ぐ体制にしています。
引き継ぎの際に、現状を改めてすり合わせて、方針をリフレッシュして再設計しているので、そのタイミングで変化しています。
ーー運営担当は、どのように決まるのですか?
瀧川:現行の運営メンバーが、次のメンバーを指名しています。
ブログの執筆状況や業務の状況をみて、この人ならレビューなども任せられそう、運営を担当できそう、という観点で選んでいます。
永井:自分は、ある日突然Slackで「頼みたいんだけど」ってオファーの連絡が来たのでびっくりしましたね。
ーーそれぞれの運営担当による方針はどのようなものでしたか?
瀧川:テックブログの立ち上げ初期は「たくさん見てもらおう」でしたが、1〜2年くらい前までは「安定させよう」を目指していた時期でした。現在は「質をあげよう」となっていますね。
今後は、大方針がありつつも、次の運営担当次第なところもあるで、もしかしたら「次はSEOだ!」って言ってるかもしれないです。
永井:来年には「見てもらわなきゃ始まらねえ!」「質じゃない、PVだ!」という方針のもと、PV狙いのハック的なTipsを散りばめた記事を書いて「スマートキャンプのテックブログの方針を転換したワケ」という記事を上げているのかもしれません。
瀧川:そういう記事でも書きそうなくらい、わりとライトになんでも記事にして、全部オープンにしていこうとしています。
ーーなかには、内面のことやプライベートのことまで記事にされていますが、そういったテーマを記事にするのが苦手な方はいませんか?
永井:もちろんいます。
技術周りの記事を書くことが好きだというメンバーに苦手なトピックスの記事を書くことを求めることはありません。
例えば育休の記事は、社内のSlackで「育休取ります〜」と話されていたことから、「そういえばこの前、育休とってましたね。記事にしましょうか」というやりとりを召喚定例で行って書くことになりました。
ライフステージの変化でも、技術のことでも、何かしらの「試行錯誤」を書けばいいと考えています。
ーー「試行錯誤したストーリーが伝わる」というコンセプトの記事づくりを始めたのは、「質を高める」運営方針になってからですか?
永井:そうですね。
「質とはなにか」
「どうすれば質を高められるのか」
という言語化のプロセスで
「オリジナリティを出そう」
「社内でやったことを伝えよう」
「試行錯誤したストーリーを書こう」
という流れに自然となりました。
そのため、個人でやってみたことよりも、社内で実際にやったことを記事に書いてもらえるようにしています。
もし、個人で薄くチュートリアルだけやってみたことを記事にしようとしている場合は、もう少し業務で携わったトピックスから記事のネタを一緒に探すようにしてます。
どういう施策をしたか、その人ならではのことがあるか、というヒアリングを経て、より深く試行錯誤のプロセスを紐解き、記事の品質を高められるようにサポートをしています。
ーー「質を高める」運営方針にしてから、テックブログの成果を実感できた手応えはありますか
最近になって入社した中途採用のエンジニアや、新卒採用のエンジニアに「テックブログを入社前に見ましたか?」というアンケートをとりました。
回答者の7〜8割くらいは、選考前や書類選考後の、選考の序盤のほうにテックブログを見てくれてわりと好印象を持ってくれていることがわかりました。
アンケートの結果を通して
「どのような志向を持ったエンジニアがいるかわかったため、安心して選考を進められました」
「技術面を磨いていけそうだと感じたことで、入社意欲が高まりました」
というフィードバックを得られたことで、採用につながっているんだな、ということを実感できましたね。
ーーテックブログにおける行動や成果は、個人やチームの評価対象になりますか
永井:ブログの執筆や成果を特にプラスで評価してはいません。全員がブログを書く前提になっているので、評価においてもブログはあたりまえに書くものとして扱われているためです。
以前は、はてなブックマークがたくさんついたら、お祝いに寿司を食べさせてもらえる、みたいなことがあったようですが、最近はそういうこともないですね(笑)
アウトプットの促進:また書きたい気持ちが生まれる、喜びのシェアと運営の気遣い
ーーテックブログからは少し外れますが、内面のことやプライベートなことまで記事にできる背景として、普段から話しやすい雰囲気の組織作りがされているのでしょうか?
永井:そうですね、スマートキャンプ全体として、会話がかなり活発な組織だと思います。
なんでも話しやすい雰囲気の組織にできるようコミュニケーションの機会を意識して増やす取り組みがあります。
例えば、全社員でシャッフルして選ばれた社員同士が10分程テーマに沿って話す場が隔週であったり、今月だと開発合宿を実施するなど、コミュニケーションを増やす機会を積極的に設けています。
ーー継続的にコンテンツを発信されていく上で、難しかったことはありますか
永井:記事に書くことがなかなか決まらない「ネタ切れ」になることが課題です。
記事で書きたいことが貯金できるくらい、次々と開発施策ができるような状態の組織にしていきたいなと考えています。
おそらく、ブログに書けるけれど、埋もれていて見逃しているネタもたくさんあると思います。
そういった見逃しを防いで、ネタを貯められるようにする取り組みの一つとして、Slackでのネタ帳チャンネルがあります。
また、弊社のSlackには「テクブロに書こう」というemojiがあります。
Slack内で技術的な発言をした際は、そのemojiをつけて、そのemojiのついた投稿だけが自動的にpostされるチャンネルをオープンにしています。日々のSlack投稿から、みんなでネタ帳を作れるという施策です。
ーーSlack投稿をした本人でなくてもネタ帳からブログを書いてもいいのですか?
永井:はい。そのネタを書いてみたい人が書いてみればいいというスタンスです。
もし書きたいネタが被っても、同じネタで連作にすればOKです。
ーーモチベーションを高めるためには、どのような工夫をしていますか?
永井:モチベーションは重要視しているので、気持ちよく書いて、次も書こうという気持ちになってもらえるよう、いくつかの工夫をしています。
例えばレビューでは、伝え方や伝える順序に気をつけています。
「ここ直してください」と修正箇所の指摘ばかり続くレビューでは、せっかく書いても、気が滅入ってモチベーションが下がる恐れがあるので、最初に読んだ感想を伝えたうえで「ここは直したほうがいいですよ」と伝えています。
井上:執筆している途中で「筆が乗らへん」と手が止まったら、壁打ち相手として相談に乗ることもあります。
無理やり書いてもいいことないので、どうしても書けないときは、締め切りを延ばしたり、別のテーマを書いてもらうこともあります。
永井:あとは、公開後のポジティブなリアクションを共有するようにしています。
PVを重要視はしないのですが、自分の書いたブログがたくさん見られていることや、リアクションがあるとうれしいので、次へのモチベーション向上につながります。
はてなブックマークのランキングに載って一気にPVが増えたり、Twitterでのリアクションがあったことを共有して、「やったね!」と喜びを分かち合うようにしています。
井上:スマートキャンプのテックブログのドメインの含まれるURLを添えたツイートを拾って、特定のSlackのチャンネルに集める「#tech_blog_reactions」を作っています。
チャンネルに参加すると、テックブログの感想を、みんなで見ることができます。
永井:ただ、このチャンネルは、どストレートに何のフィルタもなく流れるので、なかには、否定的なコメントが目に入ることもあります。
そのため、
「フィルタなしの感想を見たい場合は、そのチャンネルに入ってください」
「フィルタなしで感想を見るのに抵抗がある場合は、テクブロ運営担当が抽出して伝えます」
という配慮をしています。
いわば、人力フィルターの役割ですね。
ーーテックブログの運営を通して喜びを感じるのはどんなときですか
井上:運営として案出しをサポートした記事に、感想やリアクションがついた様子を「#tech_blog_reactions」で見ることができるとうれしいなって思いますね。
人によっては何度も相談に乗ったり、かなり苦労して書かれるので、そういう方が書き上げた記事が、公開直後だけでなく、しばらく経ってからもリアクションがあると「需要があったんだな」と感じます。
質の高い記事づくりを目指しているので、長く読まれているというのは、質の高さを証明されているようで、やっててよかったと思いますね。
ーー最後にテックブログの運営について、悩まれている方へ伝えたいメッセージがあればお願いします。
瀧川:長期間のテックブログ運営を通して、事業や組織に効果はあったなと感じられたからこそ、私たちは今も続けられています。
「テックブログを見て興味を持ちました!」という人と出会える採用への効果だけでなく、記事に多くのリアクションがついてうれしかった気持ちを共有することで、社内のコミュニケーションを活性化する効果にもつながっています。
テックブログを始められる方は、まずは粘り強く、1年間継続できるようにがんばって欲しいですね。やってみて、後悔はしないものだと思うので。
ーーありがとうございました!
まとめ
スマートキャンプさんのテックブログでは、
- 全員で取り組むことを前提としながら、柔軟に調整できるスケジュール
- 何を書くかから魅せ方まで相談する、記事企画ミーティング(召喚定例)
- 開発組織の雰囲気やメンバーの人となりが伝わる試行錯誤のストーリーを、記事の切り口に
- ブログに関わる全員のモチベーションアップにつながる、コミュニケーション・ポジティブリアクション
といったサポートを行う運営姿勢が印象的でした。
ツール活用で運営担当の負担軽減をしながらも、テックブログを組織の文化や所属メンバーと調和させる。さらに、立ち上げの頃から変わらない「寄り添う」姿勢であたたかなサポートを続けている。
だからこそ、書きたい気持ちを育んで継続しやすく、質まで追求したテックブログ運営が行えるのですね。