株式会社Showcase Gig(ショーケース・ギグ)は、飲食店の注文・決済をお客様のスマートフォンから実現するモバイルオーダーサービスを展開しています。同社ではモバイルオーダープラットフォーム「O:der(オーダー)」を提供しており、特に昨年ローンチした店内飲食向けのモバイルオーダーサービス「SelfU(セルフ)」では、コロナ禍で飲食の在り方が大きく変貌を遂げる中、飲食店のDXに大きく貢献しています。
今回、取締役CTOの石亀 憲(いしがめ あきら)さんにお話を伺い、同社の強みや、コロナ禍での飲食店の変化、これからプロダクトがどのように伸びていくのかといった可能性について聞きました。
株式会社Showcase Gig
取締役 CTO 石亀 憲
大学卒業後、システム会社を立ち上げ、エンジニアとしてモバイルを中心とした開発業務に携わる。その後、株式会社ミクシィとのジョイントベンチャー、株式会社tuthを設立し、副社長に就任。mixi、Facebook、Twitterを横断したマーケティングプラットフォーム「StageSync(ステージシンク)」やソーシャルアドソリューション「エキスパンドバナー」システムを開発。2012年、株式会社を共同設立、CTOに就任。
国内外でもいち早く店舗のDXに着目
――まずは、Showcase Gigが提供する様々なプロダクトについてお教え下さい。
石亀: 当社が提供するサービスは「いつものお店での飲食体験」を特別なものにする新しいプラットフォームです。モバイルオーダープラットフォーム「O:der (オーダー)」は、店内飲食向けモバイルオーダーサービス「SelfU(セルフ)」、タッチパネル型注文決済端末「O:der Kiosk(オーダー・キオスク)」、そしてテイクアウトオーダーシステム「O:der ToGo(オーダー・トゥーゴー)」の3つのプロダクトから成ります。
当社は2013年に、事前注文・決済型のテイクアウトアプリをいち早く提供するところから事業が始まりました。現在では、飲食店のOMO(Online Merges with Offline)を推進し、日常の消費活動をデジタルで便利にすべく事業を展開しています。
店内向けモバイルオーダーサービス「SelfU(セルフ)」
――自社で実店舗の運営なども取り組まれていますよね?
石亀: そうなんです。まだ「モバイルオーダー」という言葉が一般的になる前の2016年に「O:der」を前提としたフルデジタルのコーヒースタンド「THE LOCAL」を渋谷にオープンしました。正直、馴染みのないサービスを理解してもらう場所が欲しかったんですが、結果として、ショールームのような位置付けで多くの方々にモバイルオーダーを体験してもらうことができました。昨年には当社が開発を手掛けたサントリーホールディングスのコンセプトショップ「TOUCH-AND-GO COFFEE」も大きな話題を集めました。こちらは完全非対面のモバイルオーダー専門店で、パーソナライズされたラベルのコーヒーボトルなど先進的な取組みがSNSでもたくさんの反響をもらいました。
――プロダクトの検証や体験の場を自分たちでつくってしまうというのはすごいですね!いまでは多くの店舗に導入されているモバイルオーダーですが、はじめて導入されたのはどのような店舗だったんですか。
石亀: 最初は、当時の僕たちのオフィスがあったビルに自動車メーカーのフィアット クライスラー ジャパンが運営する「FIAT CAFFÉ」があって。代表の新田(代表取締役)がオーナーと親交があり、2013年7月に第一号店として導入してくれることになったんです。
実際にお店に導入し、お客さん目線で自ら体験してみると、開発しながら思い描いていた体験とは良い意味で違っていました。「たぶん、こういう感じなんだろうな」という予測はあっても、正直想像でしかなかったんだなと。実際に使ってみると、実体験として驚くほどの利便性が身にしみて理解できて、そのとき初めて「これがオンラインとオフラインを繋ぐ事で得られる価値なんだな」としみじみ思ったことを覚えています。
イメージと体験はまったく違います。体験から本当にたくさんの感覚や情報が得られるのだと痛感した瞬間でした。店頭のオペレーションに実際組み込まれたところを体感することで、自社のプロダクトが提供する真の価値を理解できました。
――こうしたプロダクトを通じて、社会をどのように変えたいと考えていますか?
石亀: 「店舗の不便な点」に先回りして気づき、負を解消していけたらと考えています。もともと「SelfU」を開発したときも、飲食店のオーナーや店長がアルバイト採用に苦しむ姿を見ていたことがきっかけの一つでした。店内のオペレーションをデジタルで効率化することでホールスタッフの工数を削減できないかと考えたのです。お客様側としても忙しい店員さんを呼ぶストレスなく、自分のスマホで注文ができれば便利だろうなとも思いました。
こうした「不便な点を先回りして気づく」考え方はこれからも重要だと思っています。アフターコロナが訪れ、海外旅行者の渡航が再開すれば、翻訳機能を搭載しておくことでインバウンド需要にも対応できますし、メニューの魅力を伝えるために写真や動画を充実させることもできます。
コロナ禍では店内モバイルオーダーサービス「SelfU」「従業員体温管理」機能を搭載するなど、ニーズに応じてどんどんバージョンアップすることで飲食店の非接触化、IT導入支援を更に加速させました。
――Withコロナ、アフターコロナの世界で、Showcase Gigはどのような役割を果たしますか?
石亀: 新型コロナによって、飲食店がより多くのチャネルから注文が受けられる体制づくりなど柔軟かつスピーディーな変化が求められています。テイクアウト、デリバリー、テーブルオーダー、事前決済、そんな風に「店内で飲食する」以外のサービス提供方法を私たちが考え、飲食店の武器を一つでも増やしたいです。
また、注文手法が増えたことによって、店頭のオペレーションにもトランスフォーメーションが起きています。その変化によって起こった現場の負荷を、私たちのシステムで軽減できればと考えています。
2020年、全国の「吉野家」にも導入が進んだ「O:der」
――まさにコロナ禍にぴたりとマッチしたサービスだと思います。2013年といえば、スマホが普及し始めたばかりの頃。オンラインとオフラインを統合するのは、大変ではありませんでしたか。
石亀: 当時の大きな悩みは、インターネットにつながっていないPOSレジと、モバイルオーダーをどのように連携させるかということでした。POSレジとの連携は一筋縄ではいかないので、POSレジにモバイルオーダーを直接連携させるのではなく、私たちが用意した注文表示端末と組み合わせてもらう事でモバイルオーダーを実現していた時期がありました。
その後2017年から大手POSレジメーカー「東芝テック」と標準連携したPOSレジが販売されるようになり、モバイルオーダーによる注文がPOSレジに直接連携される仕組みを確立することができました。
――タブレット端末をレジ代わりに利用したり、クラウド型のレジスターサービスも登場したりしていますが、それらのサービスとどのように違うのですか?
石亀: 大規模な飲食チェーンの場合、全国で数百台規模のPOSレジがすでに導入されているため、それらをすべて撤去して新しい端末に置き換えるには莫大なコストと手間がかかります。しかし「O:der」の場合、既存のPOSレジシステムと連携しているので、店舗数やPOSレジの台数が多い飲食チェーンでもモバイルオーダーサービスを導入することができます。
――いま、Showcase Gigのサービスは具体的にどのような店舗に導入されていますか。
石亀: 2020年2月から、大手牛丼チェーン「吉野家」の全国の店舗に「O:der」が導入されています。ユーザーは来店前に行きたい店舗の注文専用ウェブブラウザから「O:der」で注文を済ませておけば、店頭で待つことなく指定時間に商品を受け取ることが可能です。
既存のPOSレジと連携しているため、店舗側にとっても利便性が向上し、業務効率を高めることができました。しかも、導入時期の2月はちょうど海外で新型コロナウィルス感染症が拡大し始めた頃。テイクアウトの需要も高まり、多くのお客様にモバイルオーダーでご注文いただきました。
短いスパンで店頭も含めた仮説検証を目指す
――ここからは技術面についてお聞かせください。現在、Showcase Gigではどのような開発体制をとっていますか。
石亀: 現在当社には31人のエンジニアがいて、それぞれのチームに分かれてプロダクト開発を行い、エンジニア組織の課題解決などに挑んでいます。またファストフードをターゲットとした「O:der Kiosk」(タッチパネル型のハードウェア)はハードウェアの開発を委託しているパートナー企業がいて、そのハードウェアとAPI連携をしています。僕たちはあくまでもソフトウェアカンパニーという位置付けです。
開発手法は主にスクラム開発を取り入れ、できるだけ仮説検証のスピードを速めたいと考えています。私たちの開発には店頭の動線やPOSレジ、その他のハードウェアも関わってくるので、店頭で稼働させてみる事でやっとわかる事もあります。
そのため、実証実験を行っている店舗などですばやく仮説検証を行っていきたいと考えています。今後はレストランタイプの店舗を出店して、より複雑なメニューを用いた仮説検証をしていきたいですね。
――プロダクト開発をする上での難しさ、面白さを教えてください。
石亀: 1つのトランザクションに、オンラインとオフラインの両方が含まれる点だと思います。
モバイルオーダーの場合、トランザクションとは、来店客が手元のスマホで注文してから、それをサーバーで処理してキッチンに届け、その注文データがキッチンに置いてあるキッチンプリンタでプリントアウトされて、作ったメニューを無事にテーブルまで届けるまでの一連の流れを指します。
通常のオンラインで完結するシステムと違って、データがオフラインに現れ、人の手を介すところが難しい。例えばエラーが起こってキッチンプリンターへ万が一注文が届かなかった時も、きちんとその事を正確に伝える為の仕組みが必要です。
今後は機械学習によるメニューのパーソナライズや、需要予測の必要も出てきます。仕入れた材料から「日替わり定食」の内容を予測したり、過去の注文データの分析から曜日・時間帯ごとに多く注文されるメニューを予測したりすることもあるでしょう。あるいは、毎日必ず昼・夜の同じ時間帯に集中する飲食店のトランザクションをいかにスムーズに処理するかという問題もあります。一見シンプルに見える店頭でのオペレーションはシステムに落とし込もうとすると、実は複雑で解決しがいのある問題ばかりです。
チャレンジングな課題を正確に解きほぐし、システムに落とし込む力が必要
――社内にはどのようなメンバーがいらっしゃいますか。
石亀: チャレンジングな課題を解明するのが好きなメンバーが集まっています。Webサービスやアプリ開発、業務システムやゲームなどの開発に携わっていたメンバーもいれば、POSレジなどハードウェア寄りの開発をしていたメンバーもいます。
ゲームやソーシャルネットワークなど、大量のトランザクションを捌くシステムの開発経験を持つメンバーもいるので、導入店舗数の増加などでトラフィックが増える事でその経験が役に立ちます。
ただ、当社のサービスの場合、好奇心やアグレッシブさだけでは、サービスを成功させることはできません。注文された商品を来店客の手元に届けなければならないため、可用性や安定性が非常に重要です。僕たちのモバイルオーダーサービスが稼働しなくなると、店舗の業務が止まってしまい、店舗運営に大きな支障が出てしまいます。ですから常に正確に、確実に、安定的に動くシステムになるよう、万全を期さなければなりません。
専門スキルをもったスペシャリストと働きたい
――より一層、スペシャリストが求められますね。
石亀: そうですね。システムを安定的に稼働させる為のSREチームがより必要になりますし、仮説検証スピードを上げるためにはテストを自動化するエンジニアにも来て欲しい。データサイエンティストなど、より特殊な専門スキルを持ったエンジニアにも加わってほしいと思っています。
――これからShowcase Gigで働くことを考えているエンジニアにメッセージをお願いします。
石亀: 他にはないサービスを開発していることは間違いないので、まずは私たちの運営している店舗へ一緒に出かけて、この新しいモバイルオーダーを一緒に体験してみてほしいと思います。これから私たちがつくるものは、飲食店にとって必ず大きな前進になるはずです。新しい発想と、チャレンジ精神で、共に新しいサービスを開発していけたらいいですね。
転職ドラフトを使ってShowcase Gigに転職された方のインタビューはこちら
転職に成功したEMに聞く「転職ドラフト」で見つけたプロダクトや組織に共感できる企業との出会い
(取材・文/石川 香苗子)