企業はどのような点を見て指名しているのか?実際に採用したのはどんな人だったのか? 今回は4月に行われた第1回ドラフトの参加企業であるリクルートライフスタイル、フリークアウトの人事担当者を招き、リブセンスの人事担当者との座談会形式で前回のドラフトを振り返ってもらった。ドラフト参加者はぜひ、ドラフトの”裏側”を知ることで、意中の企業から指名を受けるためのヒントを見つけてほしい。
スキル面と、「何を実現したいのか」のマインド面を重視
久村: リクルートライフスタイルさんは前回のドラフトでは、どんなエンジニアを指名したんですか?
木村: 指名の段階ではあまり絞らず、少しでも気になるところがあったら声をかけるようにしていました。いい方とお会いする機会を逃したくないですし。また、そもそもリクルートライフスタイルはまだエンジニアさんたちに十分認知されているとは言えないので、どんな会社かを知ってもらったり、逆に転職市場にいるエンジニアの方たちがどんなことを考えているのかを知る機会にもなると考えたからです。
久村: 確かにうち(リブセンス)とはずいぶん戦略が違うなと感じていました。第1回転職ドラフトには200人の参加者がいたので、うちはまずスキルでスクリーニングし、そのあとに「何を実現したいか」といったマインド面でさらに絞りました。1回目ということもあってどれくらいの返信率があるか分からず、少ないマンパワーで手が回りきらなくなる事態も想定されたので。フリークアウトさんはどんなエンジニアを指名しましたか?
小沢: 初めて使うサービスで勝手が分からず、リブセンスさんのやり方を聞いて踏襲させていただきました(笑)まず私がスキル面で簡単なスクリーニングをかけてプールを作り、各事業部のマネジャーがその中から会ってみたい人を決めていきました。確かにリクルートライフスタイルさんの45指名という指名量の多さ、そして動きの速さには驚かされましたね。初日に40人以上のエンジニアを一気に指名していましたから。
木村: でも最初の接触までは全て私一人でやったんですよ。
久村: え、本当ですか?結構な人数を指名していましたよね?
木村: はい。45人の指名に対して30人から返答があり、その全員と会いました。他のスカウトサービスの返信率と同等程度かなと想定していたのですが、今回は返答率67%は予想以上でしたね。相手の転職意欲の高さや志向によってメッセージも一つ一つ変えていたので、結構大変でした(笑)
プロジェクトをただ列挙するだけではダメ。成果や理由、思いも書いて欲しい
久村: 実際に指名する際はどのあたりを見ていたんですか?
木村: 即戦力としてリーダー候補を求めていたので、まずマネジメント経験かチームで働いた経験があるかどうかを見ていました。その上で、プロダクト開発についてビジネス的な観点を持っているかどうかも重視しました。具体的には、「こういう技術を導入しました」とか「こういうプロジェクトに参加しました」というだけで終わらずに、自分がやったことがどのような定量的、定性的な成果に結びついたのかまで書いている人とは、会いたいと思いましたね。
久村: なるほど。リブセンスもチームで事業の結果を出すことを重視しているので、その点は似ていますね。「野望」の項目で個人のスキルアップに目線が行き過ぎているなと感じる人は検討から外させてもらいました。あとは自分の領域を限定せずにゴールに向かっていける人を求めているので、専門特化しているよりは幅広い経験をしている人に注目していました。それは、どんなプロジェクトを渡り歩いてきたかを見ることで、判断していました。フリークアウトさんはどうでした?
小沢: 弊社は少し違って、規模の大きな広告事業なので、基本的には技術的にマッチするかどうかを重視していました。その上で、既存の広告事業以外に新規事業をやっている部署もあるので、会社全体というより事業部ごとに、実際に配属される現場のマネジャーの意見を聞きながら、マッチする人を指名していった感じです。
久村: 逆に指名を見送ったユーザーの共通点などはありますか?うちが残念に思ったのは、自分が関わったプロジェクトをただ列挙してあるだけというパターン。先ほどの木村さんの話の中にもありましたが、自分がその中でどういう役割を果たしたか、どういう思いで働いていたのかといったことまで踏み込んでくれた方が、自社とマッチするかを判断できます。
木村: プロジェクトの内容しか書かれていないと、結局その人がどういうことをしてきたのかが伝わらないですからね。逆に将来やりたいことに関してはほとんど書かれていなくても、これまで何をしてきたかをしっかり書いている方は指名していました。
小沢: こう書いていなければダメということはなくて、詳しく書いてあると指名するこちら側としても参考になるということですよね。今回は事業部ごとにマッチするかどうかで選んでいたので、「小さいチームでやりたい」という希望が書いてあったからこそ、そうした思いが実現しやすい部署を想定して指名できたということがありました。
久村: なるほど。ちなみに指名する際に最も見ている項目を選ぶとしたらどこですか?
木村: 経験プロジェクトのフリーワードですね。
小沢: うちも同じですね。ただし他のところも参考にして指名しています。
「Github」や「野望」、「好きな本」、「アピール」も重視
久村: GitHubやQiitaなどのリンクも参考にしていました?
小沢: 弊社の広告プロダクトのメイン言語はPerlなのですが、そういったリンクが張ってあると、例えばPerlのコミュニティでどんな活躍をしているかも分かるので、判断しやすいですね。匿名の転職ドラフトでも、本人の書き方によっては誰かわかったりしますし(笑)またGithubやQiitaの内容から、その人の志向性も見えてくると思います。
久村: 他にはユーザーのレジュメをどんな観点で見ていました?
小沢: 一つの判断軸として、技術的探究心が強そうかは見ていました。だから単純な技術要素だけでなく、より深い部分まで書いてくれると嬉しいです。業務以外でどれだけ勉強しているか、技術を伸ばすことにどれくらい貪欲かという点は、フリークアウトで働く上では重要かと思います。
木村: フリークアウトさんとは逆に、リクルートライフスタイルはあくまで事業会社です。ですので、自分がやった仕事がどのような形で事業にインパクトを与えたかという視点があるかどうかを各項目で見て、会社との親和性を測ります。そしてもう一つ、常にその人の将来のビジョンを問うのが「リクルート文化」なので、「エンジニアとしてどうなりたいか」ということも書いてもらった方が、指名率は高くなるかもしれません。この2点をうちは重要視しています。
久村: 指名する企業側は、その人がどういう人なのかを知りたがっているということですよね。だから「好きな本」の項目だって、ただ本の名前を書くだけでなく、なぜ好きなのかといったこだわりまで書いてある方が、その人を知ることができる分ありがたいです。
木村: そうですね。指名の際にそれぞれの琴線に触れそうなメッセージを考える上でも、そういう情報はとても参考になりました。
久村: そういえば、リブセンスに「アピール」してくれたユーザーの中からも何人か指名したんですが、「アピール」をされたら指名を考えますか?
小沢: 考えますね。「アピール」されたら結構指名したと思います。「アピール機能」を使ってうちへの興味を示してくれた人には、基本的にはお会いしたいと考えています。参加者のスキルレベルはある程度担保されていますからね。
3社とも採用成功!ドラフトでの提示年収からの金額変化は?
久村: 実際に採用したのはどんな人だったんですか?
小沢: ドクター出の30代半ばで、エンジニア経験は7〜8年という方でした。どちらかと言うとサービス志向というより技術志向の強い方で、本人のご希望としては領域を限定せずに幅広くやりたいということでした。なので小さい部署でやる方がハマるのではないかと思い、スモールチームで開発を行っている部署を提案し、ご入社頂くことになりました。
木村: うちはフロントエンドのエンジニアを採用できました。フロントの経験はもちろんですが、前職が少人数のプロジェクトだったこともあってバックエンドやインフラの知見もある人で、かつどんな環境でどんなことがやりたいかがはっきりしていて、人物面とスキルセットのバランスが良かったんです。
久村: フロントエンドのエンジニアも募集されていたんですね。
木村: 実は、フロントエンドの求人は公には募集していなかったんです。フロントエンドはデザイナー出身の人もエンジニア出身の人もいて非常に間口が広いポジションなので、公募しにくい側面がありました。今回、たまたま現場エンジニアと会話する中でフロントエンドが足りていないという話があがり、指名中の人を紹介したところ、ぜひ欲しいということになったんです。
小沢: 転職ドラフトだからこそ成立した例と言えるかもしれないですね。リブセンスさんはどうですか?
久村: 東大を中退してベンチャーで数年働いていたエンジニアなんですが、非常にポテンシャルを感じさせるところに惹かれました。会社の理念に共感してくれているのですんなり決まりましたし、すでに現場でも馴染んでいるようです。
小沢: 指名の際の提示額はどういう基準で決めているんですか?
久村: 社内の中途採用の実績ベースです。指名の提示額はほぼ実績で決まり、志向性などの情報はプラスアルファで参考にする程度です。今回の人は実際に面接していく中で当初の提示額より数%だけ下がりましたが、大きなズレはなかったですね。
小沢: 指名時に提示していた金額より結果としては上がりました。全体でも指名数が多い方だったんですが、経験、志向性がマッチする方でどうしても採りたい方だったので良かったです。今回は異業界の方ですが、業界、技術要素が一緒だとハマるかどうかがイメージしやすいので、提示金額が上がりやすいということはあるかもしれません。
参加者は、転職意欲に関わらず「まずは会ってみる」くらいのスタンスでOK
久村: 通常の採用だと書類選考で通っても、実際に会ってみるとNGというズレがかなりあります。でも今回転職ドラフトの参加者は、面接での歩留まりが非常に良かった。手前味噌ですが、これは宝の山だな、と(笑)1回目は慎重に行き過ぎたという反省があるので、次回はもっと指名数を増やしたいと社内で話しています。皆さんはどうですか?
木村: 確かに、今のエンジニア採用の市況感から考えて、これだけ採用につながる例は少ないので、第2回も参画を決めました。次回もスタンスはそこまで変えることなく、可能な限り工数を割いて、多くの人とお会いしたいと思っています。
小沢: 相手の転職意思がどれくらいあるかというのはとりあえず置いておいて、会いたいと思った人と会うスタンスです。もしかしたら候補者の側も、自分にそこまで転職の意思がないからという理由で指名を受けるか迷っているケースがあるかもしれませんが、まずは会ってみようくらいの気楽な気持ちで利用してみてほしいですね。
久村: あと、著名なエンジニアすぎて、実力があるのは充分分かっているけど本気で転職するのか分からなかったので指名しなかったというユーザー、いませんでしたか?うちはありました(笑)
小沢: ありましたね(笑)本気なのか分からず指名を悩みました。そういう方は本気で転職する気があることをどこかに分かりやすく書いておいてくれると、ぜひ指名したいので助かります。
久村: それいいですね、ぜひ(笑)では最後にユーザーに向けてメッセージがあればお願いします。
木村: リクルートライフスタイルは、組織として変化を続けている過渡期にあるので、ボトムアップで発信できるエンジニアを求めています。やりたいこと、将来なりたい姿など、いろいろな希望を柔軟に受け入れられるタイミングでもあると思うので、どうなりたいかといった項目も積極的に書いて伝えてもらえれば。こちらとしてはまずは会ってみるというスタンスは変わりませんし、情報収集目的でもいいので気軽に会いに来てほしいですね。
小沢: フリークアウトが手掛けるアドテクはエンジニアリング次第で成果や売り上げに分かりやすくインパクトを与えられる、非常にやりがいのある分野だと思います。また、メインの広告事業以外にも積極的に新規事業を展開していくフェーズにあるので、幅を広げたい人に提供できるポジションもあります。ちょっとでも気になったらお互いに情報交換をしましょう!
久村: 転職ドラフトは自社のサービスですが、1回目をやってみて質の高い人と出会えるいいサービスだと確信しています(笑)フリーワードの記入欄が多いので、書ける情報は出し惜しみせず、書き方も工夫して自分のキャラを出してもらえたらと思います。そうやってマッチ度が上がれば、お互いにハッピーになれるわけですから。こちらとしても前回以上に積極的にドラフト指名しますから楽しみにお待ちください!
文:鈴木 陸夫