グループウェア国内シェアNo.1。近年はビジネスアプリ作成プラットフォーム・kintoneがシェアを伸ばすなど躍進著しいサイボウズ株式会社。サイボウズと言えばこうした先進的なサービス・事業はもちろん、市場価値をもとに給与を規定する人事給与制度や副業OKなどの福利厚生など、働きやすさの点でも注目の的だ。実際、サイボウズの中の人たちは、自社をどのように見つめているのか。執行役員 グローバル開発本部長の佐藤氏、そして事業支援本部人事部マネージャーの青野氏に話を聞いた。
サイボウズ株式会社
執行役員 グローバル開発本部長
佐藤 鉄平
東京工業大学大学院社会理工学研究科修了。 2007年に新卒でサイボウズに入社。大規模向けグループウェアGaroon、国際版ワークフロー、次世代グループウェアの研究開発に従事。その後、ビジネスアプリ作成プラットフォームkintoneの開発チームリーダーを経て、2016年7月に執行役員 グローバル開発本部長に就任。社外では@teppeisとしてJavaScriptを中心に執筆や講演など活動中。
サイボウズ株式会社
事業支援本部 人事部マネージャー
青野 誠
早稲田大学理工学部卒業後、2006年にサイボウズに入社。営業やマーケティングを経験した後、人事部へ。採用・育成・制度づくりに携わる。
自分たちがヘビーユーザー。それが、サイボウズの開発の魅力
Q: サイボウズさんはもともとグループウェアで国内シェアトップレベルでしたが、最近はcybozu.comやkintoneなど、新たな分野に挑戦されていますよね。
佐藤: そうですね。グループウェアも、今、クラウド化のニーズが高まってきていて、クラウドであるcybozu.comの導入社数が増えています。一方、kintoneはユーザーが自由にカスタマイズできるように設計したグループウェアなんですが、このカスタマイズ性が好評です。
Q: 好評の理由は?
佐藤: 企業には各社ごとに固有の文化や仕事の進め方があって、従来のグループウェアの画一的な機能ではカバーしきれない部分がありました。しかし、フルスクラッチでシステム開発を外注する場合、何か業務を追加しようとすると、そのたびに新しく契約を結ばなければいけません。その煩雑さを解消できる高い利便性こそが、kintoneの魅力。現場がこういうことをやりたいと思ったら、わざわざ上に見積もりの承認をとらなくても、自分たちで思い通りにカスタマイズできる。ここは、競合製品と大きな差別化のポイントだと思います。
Q: なるほど。現在の開発体制はどれくらいの規模なんですか?
佐藤: およそ200名が開発に携わっています。ここにはプロダクトマネージャーやデザイナー、品質保証担当も所属していて、エンジニアだけでいうと100名程度。もともと新卒を中心とした採用活動を行ってきましたが、近年では他社での経験や新しい技術を積極的に採り入れるためにも、中途採用を強化しています。
Q: エンジニアを中途採用する場合、サイボウズさんでは、どんな技術を持った方を求めているんですか?
佐藤: 弊社の場合、製品ごとに様々な言語を使っているんです。Java、PHP、インフラだとGo、Python、C++などです。また、kintone開発にあたっては、GUI上での自由な挙動実現のために、JavaScriptを多用しており、この部分で活躍できるフロントエンドのエンジニアも求めています。さらには、業務向けモバイルアプリへのニーズも高まっているので、iOS/Androidアプリエンジニアも大歓迎。一方で、cybozu.comでいえば、リリースから5年ほど経ちましたが、まだまだ初期のアーキテクチャなので刷新が急務です。大規模データ処理、Elasticsearch、Hadoop、Prestoなどの経験のある方にもお会いしてみたいですね。
Q: 製品ごとに様々な言語を用いるとのことですが、技術選定の観点は?
佐藤: たとえばkintoneを例に挙げると、まずJavaを使っています。その理由はkintoneの開発規模が15人前後と比較的人数の多いプロダクトであることが1点。そしてもう1点、kintoneはデータベースを作るイメージに近いんですよね。webアプリによくある文字列処理というより、型を大事にするという点でJavaを選んでいます。フロントがJavaScriptなのは、kintoneのユーザーがプロのプログラマーではなく、一般の方たちだから。専門的な知識がなくても、ドラッグ&ドロップで直感的に操作できるのがkintoneの売りです。JavaScriptの開発規模はリッチで大きくなりますが、静的型付けや自動テストを有効に活用することでメンテナンス可能、かつスケーラブルに開発できる。こうした点を重視して技術選定を行っています。
Q: では、そうした技術を持ったエンジニアがサイボウズさんに入社するとして、最も大きいメリットは何ですか?
青野: まずプロダクト面での面白さで言えば、自分たちで使いながら自分たちのプロダクトを改善できるところ。これは非常に大きいと社内のエンジニアもよく言っています。cybozu.comにしてもkintoneにしても世界一のヘビーユーザーは、私たち社員じゃないかと思います (笑)。改善点については社内からのフィードバックも多数あります。まずは自分たちが使ってみて、自分たちでもっとこうした方がいいと提案ができる。この環境は得がたい魅力です。だからこそ、プロダクトについても便利で価値のあるものだと心底実感できるし、それが世に出て、いろんなユーザーに使ってもらうことで、私たちのミッションである「チームワークあふれる社会をつくる」ことに寄与している喜びと誇りをダイレクトに感じることができるんだと思います。
佐藤: エンジニアの技術力向上という意味では、サイボウズ・ラボのスペシャリストと自由にコラボできることもメリットかもしれません。サイボウズ・ラボは設立10年以上たちますが、主に中長期的な視点で技術研究活動を中心とした組織です。機械学習や統計、高速化、暗号技術やセキュリティなど、幅広い分野のスペシャリストが同じフロアにいて、日々密に連携をとりながら進めています。同じプロジェクトチームに所属することもありますよ。
「Amazonで受け取りたい荷物があるから今日は家で仕事がしたい」もOKです(笑)
Q: ありがとうございます。加えて注目なのがいろんな社内制度です。様々な制度がありますが、中でもエンジニアから好評なものは?
青野: まずリモートワークは使っている人が非常に多いですね。当社のリモートワークは2種類あって、週3回在宅勤務など定常的にリモートワークを取り入れるタイプ。これはエンジニアでは実際に1人活用している人がいます。ただ、圧倒的に多いのは、社内で「ウルトラワーク」と呼んでいる制度の方です。何が違うかというと、このウルトラワークは普段はオフィスで働きながら必要に応じてリモートワークできるというもの。手続きはシンプルで、上長の承認とチームへの共有があればそれで構いません。在宅勤務の理由も今日はミーティングもないし家で集中して作業を進めたいというものから、どうしてもAmazonで受け取りたい荷物があるので家にいたいというものまで何でもOK(笑)。台風の日にわざわざ何時間も駅で並んで会社に来る必要もありません。チームの信頼があって、家でもきちんと成果が出せるという合意があれば、いつでも可能です。
Q: 羨ましい…。あの台風や大雪の日の不毛な通勤地獄を味わわなくていいんですね! 他にはどんなものが?
青野: 男性の育休で言えば、今年は1ヶ月の育児休暇を取得した男性がエンジニアだけで4人います。あとは育自分休暇制度もサイボウズらしい制度。これは自分の成長のために退職した者に対し、最長6年間まで復帰可能というものです。もともとサイボウズは辞めた後、また出戻ってくる人が非常に多かったんですよ。それで、これだけ出戻りが多いなら、こういう制度があっていいんじゃないかということで誕生しました(笑)。
佐藤: 職場環境についてはこちらで紹介しているので、ぜひ参考にしてもらえたら。あと有名なものだと副業OKでしょうか。これも原則申請は不要です。エンジニアの場合、専門書を執筆するとか、外部で講演をするとか、そうした社外での活動がその人自身のキャリアになります。ですから、そうした社外での活動に一切ハードルは設けていません。実際、技術書を上梓しているエンジニアも何人もいて、私もその一人。他にも土日や業務外時間を使ってスタートアップに参加している人もいますよ。
講演や執筆活動もサイボウズでは評価に反映される
Q: 確かに社外で知名度を上げることで、その人の市場価値もグッと上がりますもんね。市場価値と言えば、サイボウズさんの給与は市場価値で決まると聞いたのですが。
青野: 市場価値での評価を一言で説明すると「その人が転職したらいくらかの値がつくか」で決めています。その人が持っているスキルや社内で勉強会を開くなど、プロダクトや組織への貢献が評価の対象になります。先ほどお話したような執筆や講演など外に向けてのアピールも市場価値を高める活動の一つになります。
Q: でも市場価値ってどうやって算出するんですか?
青野: 「社外的価値」と「社内的価値」で決めています。「社外的価値」とは、先ほどの「転職したらいくらもらえそうか」という金額。これは職種や働く場所によっても変わります。人事が人材会社や厚労省がまとめている平均給与などのデータを参照しながら給与レンジのイメージを決めています。また、中途採用の面接を実施してる人事やマネージャーは転職する場合のおおよその金額は肌感覚で分かっていると思います。
「社内的価値」は、社内での信頼度。サイボウズでは、信頼度を「覚悟×スキル」で測っています。「覚悟」はコミットメント。会社やチームに対してどれくらい共感して、尽くしているか。覚悟は個人の選択により増減するものです。「スキル」は、考える力や伝える力などを4項目に分け、具体的には「あくなき探究(考える)」「知識を増やす(知る)」「心を動かす(伝える)」「不屈の心体(続ける)」という4項目で評価しています。
また、フィードバックを大切にしており、なぜその金額になったのかを本人に説明をしています。そういうフィードバックもあって、社内の納得度は一定のものを得ている感触はありますね。
Q: フィードバックは大事ですよね。ちなみに誰から評価・フィードバックしているんですか?
青野: エンジニアなら、エンジニアチームの上長ですね。サイボウズは職能によって組織が分かれているんですよ。100名程度のエンジニアが大体10~20名単位のチームに分かれています。現場でそれぞれの働きをいちばん細かく見ているのはマネージャー。だからマネージャーがメンバー一人ひとりの日々の活動や成長についてコメントし、決定します。ちなみに、上長は必ずエンジニア出身。それも普段現場とまったく接点がないかと言えばそんなことはなく、日々面談や実際にチームに入って一緒に活動をしている人間が評価を行います。そのフィードバックで納得いかなければ、人事責任者に直接聞いてもらってOKということにしています。
Q: それぞれのプロダクトのマネージャーは評価に関わらないんですか?
青野: そうなんです。あくまで人事組織は職能ごとに編成し、そこに横串のようなかたちでプロダクトのチームがあって、プロダクトマネージャーが統括。それぞれエンジニアやデザイナーが参加するというかたちになっています。もし製品について改善案を出したくても、プロダクトマネージャーが自分の評価をする役割も担っていたら、言いづらいこともあるじゃないですか。フラットに意見を言い合える場をつくるためにも、プロダクトマネージャーは評価に関わらず、そのチームにおけるマネージャーが各エンジニアの評価を行っています。
Q: 一般的な企業の給与評価によくある階級やグレードもないんですか?
佐藤: ありません。今はエンジニアの働き方も多様化していて、画一的なグレードでは測れない時代ですから。執筆や講演を通じて自分の知名度を上げたいという人もいれば、ただ製品にコミットしたい人もいる。あるいは会社づくりに対して強い関心がある人もいます。私たちはどれも否定するつもりはないんです。人によって好きなことは違うし、100人いれば100通りの人生があり働き方がある。だから階級でその人の能力や評価を区切ることはしていないんです。
Q: お話を聞いてると本当に多様性を大事にされているんだなというのがわかりました。では転職ドラフトの登録者に向けてメッセージをお願いします。
佐藤: エンジニア組織の部長が一人ひとりのレジュメを個別で見た上で、サイボウズで活躍する場所がありそうな方に対して、スキルや経験を踏まえ、適正な金額をご提示するつもりです。技術力はもちろんなのですが、サイボウズはチーム開発を非常に重視しています。ですので、チームでものづくりをしたいと思っている方、自分で学習したことを組織に還元し、組織と共に成長していける方に来ていただけたら嬉しいですね。
文:横川良明