近年ポジションを設ける企業も増え、エンジニアキャリアの一つとして認知が高まっているテックリード。
「なんとなく憧れがある」「まずはテックリードを目指したい」という方も多いのではないでしょうか?
そんな方に向けて、「テックリードになるには何をすればいいのか?」「テックリードはどんなことをしているのか?」など、キャリアを考える上でヒントになるお話を現役のテックリードに教えていただきました。
インタビューにご協力いただいたのは、250万ユーザーを超えるオンラインプログラミング学習サービスを提供する株式会社Progateの森田 裕祐さん。
今まさに最前線で活躍されているテックリードのおひとりへのインタビューから、エンジニアキャリアパスを構築してきたリアルなストーリーをお届けします。
森田 裕祐(もりた ゆうすけ)
1995年生まれ。大学卒業後、新卒でビズリーチに入社。その後CAMPFIREにて新規事業の開発・モバイルアプリのバックエンド開発に携わり、2020年の6月に株式会社Progate入社。2022年3月現在、「Learning Experience」チームのテックリードとして活躍。趣味は小学生時代から続けている卓球。最近は筋トレにもハマっていて、少しずつ身体に変化が生まれるのが楽しくてしょうがないのだとか。
「自分が気持ちよく開発できる環境」を求めて
ビズリーチ、CAMPFIRE、そしてProgateと、知名度も高く成長著しい企業でキャリアを重ね、26歳という若さでテックリードを担う森田さん。
ギラついた野心を感じさせるような回答を想像しながら「どのようにご自身のキャリアをプランニングしてきたのですか?」と質問をぶつけてみたら、思いもよらない答えが返ってきました。
「自分のキャリアを解像度高く考えたことはあまりないですね。テックリードになりたいと漠然とは思っていましたが、『何年以内に絶対なるぞ』『そのためにこれを頑張ろう』というものではありませんでした。」
森田さんが会社選びを含めキャリアで大事にしてきたのは、より高いポジションを目指すことではなく、「自分が気持ちよく開発できる環境に身を置きたい」ということ。
「プログラミングをはじめたのは、大学3年生のときです。最初はとにかく『色んな機能を作ること自体が楽しいな』という気持ちだけでした。正直、そんなに高い視座を持っていたわけではないと思います。そして、今でも気持ちよく開発できることに魅力を感じていますね。」とこちらをまっすぐ見つめながら語る森田さん。
彼にとって「気持ちよく開発できる環境」とは、プロダクトの内部品質を高めて事業に貢献していこうと志す仲間に囲まれていること。
Progateは、スピード感だけではなく品質も重視する点において経営陣の理解もあり、森田さんにとって自分がやりたい形での開発ができる環境だそうです。
「気づいたら今のポジションにいた」キャリアは後からついてくるもの
そんな森田さんに「どのような流れで今のポジションに就いたのですか?」と尋ねると、その答えは「日々、目の前の課題を一つひとつクリアしていくことに集中し続けていて、気づいたらテックリードになっていました」というシンプルなものでした。
アメリカに渡って技術を学ぶといった特別なことをしたわけでもなく、またテックリードになりたいと猛烈なアピールをしたわけでもないそうです。
それでも、社会に出て4年でテックリードのポジションを得られた(現在Progateには6人のテックリードがいて、森田さんはそのなかで最年少)秘訣は、「課題に取り組む姿勢」だったとのこと。
「与えられた業務をこなすではなく、開発を通して事業を成長させられているか、を常に考えるのは大事だと思います。新卒で入った会社での業務は主に保守・運用で、事業貢献という意味では手ごたえをあまり感じられていませんでした。もっと中長期的な視点でプロダクト開発に取り組みたかったですし、技術的な意思決定もしたかったので、それができると感じたProgateに転職しました。」
会社という組織に属している以上、事業に貢献する必要があると多くの人が理解はしていると思います。
しかし、それを自分事として捉え、課題を発見し、一つひとつ全力で解決していく――そんな視点を持てれば、自然とキャリアアップにつながるのかもしれません。
「今考えてみると、テックリードになる前からテックリード的なことをしていたように思います。例えば何かエラーが発生したときに、今後発生しないようにするためのシステム構想から実装まで、他のエンジニアと協働しながら進めたこともありました。」
「技術の力で事業を前に進める」がテックリードのコア
かくしてテックリードとなり1年弱、現在森田さんはどのような役割を担っているのでしょうか?
答えてくれたのが次の3つです。
- チームに閉じずに全社の視点でプロダクトを前に進めていくための、技術的な意思決定
- エンジニアチーム全体がスキルアップするための活動
- 優先度の高い課題をチームリードが判断するにあたっての、技術面での材料提供
全てに共通しているのは、「技術の力で事業を前に進めるために必要な役割」であるということ。
そして、これこそがテックリードのコアであると森田さんは語ります。
「テックリードというポジションはどこか曖昧で、会社の規模や組織体系によってその役割や業務も変わってくるでしょう。しかし、どの会社でもテックリードにとって大事な役割は『技術の力で事業を前に進める』だと考えています。開発することが好きで、自分の技術を使って事業成長させたいと思える方は、テックリードに向いていると言えるのではないでしょうか。」
ちなみに、テックリードはよくエンジニアチームのチームリードと比較されます。
その違いについて森田さんに尋ねると、「あくまで弊社の場合ですが」と前置きして次のように答えてくれました。
- チームリード…主に事業的な側面から、チームで取り組むべき課題やそのリソース配分を考える
- テックリード…技術的な部分に限定して、チーム内の技術面の相談を受けたりアドバイスをしたりする。チームを横断し、全社の視点からプロダクトをどう前に進めていくかの意思決定や調査をする
Progateの場合、チーム内機能にとどまらず、役員直下で全社に関わる技術課題に取り組む社内機能という立ち位置。
だからこそ、チームを横断した動きや、全社的な視点が求められるそうです。
「テックリードになって、自分だけじゃなくメンバーの成長を考えるようになった」
森田さんのテックリードとしての業務内容についても教えていただきました。
大きく分けて、次の5つの業務を担っています。
- 技術的に負荷の大きなタスクの設計や意思決定
- エンジニアやチーム内外のメンバーからの技術的な相談対応
- 他職種との各種調整
- チームメンバーとの、技術を高めることを目的とした1on1やミニ勉強会
- 採用面接
これらの業務はテックリードになってはじめて担うことになったものも多いそうです。
なかでも最近力を入れているのが、同じチームのエンジニアとの1on1。
もともとは技術面での質問や相談を受ける時間だったそうですが、今は書籍を用いたミニ勉強会を開く場合もあるとのこと。
例えば、ソフトウェア設計の名著『オブジェクト指向における再利用のためのデザインパターン』を事前に読んでもらって、書籍の中で説明されている概念をコードに起こしてもらい、それを森田さんがレビューする、というものです。
「テックリードになる前は、メンバーの成長まで考えることはなかったと思います。しかし今は、他のメンバーと一緒に成長したい気持ちが強くなった気がします。私自身は『キャリアアップを目指してがんばる』タイプではないですが、立ち位置が変わることで見える世界も変わるので、例えば『まずはとにかくキャリアアップを目指して、自分が成長できる環境を作る』と考えてもよいのではないでしょうか。」
また、今でもエンジニアとして手を動かす業務も多いそうです。
現在、森田さんはテックリードを担う「Learning Experience」チームのほか、ユーザーがプログラミングする演習環境を用意するチームも兼務しています。
テックリードとして他チームや他職種との関わりも多く、業務内容も幅広い森田さんに「テックリードになってどんな苦労や失敗をしましたか?」と投げかけると、「大きな苦労や失敗はありません」と一言。
「大きな意思決定をする際は、他のテックリードと相談しながら進めています。私が少し行き先を見誤っても、先輩たちが軌道修正してくれるのはありがたいことです。他のチームの方や、チームが同じでもデザイナーなど職種が違う方と、立場の違いから意見が食い違うことはよくありますが、それで大揉めするような社風ではないので、対話で解決できます。なので、今のところ大きな苦労や失敗はないと思います。」
このように語ったのち、「まあ、これから失敗が待ってるかもしれないですけどね(笑)」と続ける森田さんの表情は、それすらも楽しんでやろうという意気込みを感じさせるものでした。
逆境を楽しめると考えられる姿勢も、キャリアを前に進める上で重要な資質なのかもしれません。
「テックリードは、今の自分に一番合ったキャリア」
最後に、森田さんの考えるエンジニアとしてのキャリアパスについてお話を伺いました。
テックリードだけではなく、エンジニアマネージャー、プロダクトマネージャー、スペシャリストなど様々なキャリアパスがあるなかで、もともと「テックリードが今の自分に一番合っている」と考えていたそうです。
「今後考えが変わるかもしれませんが、今はマネジメントよりもエンジニアとして手触り感のある仕事をしていたい思いが強いからです。何か一つ特定の技術を極めるスペシャリストという選択肢もあったかもしれませんが、職人的に開発に取り組むというよりは、使う技術にこだわらず技術を使って事業貢献することに一番喜びを感じているので、やはりテックリードの方が向いていると思います。自分に合うキャリアを理解していて、そこに自然な形で向かえると仕事が楽しくなると思うので、私の話が皆さんのキャリアを考える上でご参考になれば。」
希望する会社にどんなキャリアパスが用意されているかは事前に確認しておきたい
「5年後の自分の姿をどう描いていますか?」という質問にも、森田さんらしい答えが返ってきました。
「先々のキャリアプランを深く考えないタイプなので、『どんな役職に就いていたい』というよりは『今より大きな課題を解決できるようになっていたい』という感じです。英語圏がエンジニアの本場で、より技術を高められると思うので、いつか英語圏で働いてみたいですね。」
常に自然体で、キャリアを考えるよりもエンジニアとしての成長を追い求めてテックリードになった森田さん。「開発が好きでしょうがない」「技術の力で事業を前に進めたい」という言葉がとても印象的でした。
この記事が、読者の皆さんがご自身のキャリアを改めて考えるきっかけになれば、嬉しく思います。