創業3年で国内シェアナンバーワン(※1)、全国60万以上の事業所に利用されている『クラウド会計ソフトfreee(フリー)』。2013年3月のリリース時に3人だったエンジニアは、現在約60人まで増加。これまでのエンジニアの離職者はたった1人というから驚きだ。働きやすさの背景には、どんな哲学があるのか。freee株式会社 CTOの横路隆氏、入社2年目の若手エンジニア大橋巧氏に話を聞いた。(※1:2016年2月デジタルインファクト発表「第三回 クラウド型会計ソフトの利用動向調査」より)
横路 隆(よこじ りゅう)氏
CTO and Co-Founder
学生時代から大手企業向けe-learningシステムや動産担保融資支援システムの開発に携わり、ビジネス向けのシステム開発に興味を持つ。大学院修了後はソニーでデジタルカメラのミドルウェア開発に従事。2012年共同創業者としてfreeeを立ち上げる。(※上記写真 左)
大橋 巧(おおはし たくみ)氏
偶然入ったスタートアップでWebエンジニアとしてのキャリアをスタートさせ、受託開発やソーシャルゲームの開発・運用を経験。その後サイバーエージェントを経て2014年よりfreeeに入社し、確定申告機能の開発やフロントエンドアーキテクチャの整備などをリード。(※上記写真 右)
チームやロールを固定せず、アップデートし続ける組織
Q: freeeはエンジニアの離職率が低く、非常に働きやすい環境だと聞きます。入社3年目の大橋さんは今、どんなチームで働いているのですか?
大橋: freeeにはいくつかプロダクトがありますが、そのうちのメインプロダクトである『クラウド会計ソフト freee』で、税理士さん向けの機能開発をしています。現在のチーム構成はエンジニアとUXデザイナー、「パイセン」からなる6人です。
やることやチームは四半期ごとにスピード感を持って変わります。この前の四半期はちょうど確定申告の時期だったので、そのための機能を作るチームにいました。
Q: 「パイセン」が気になりすぎるんですが(笑)
大橋: 面白い名前ですよね(笑) 以前はチーム内にエンジニアリングマネジャーとリードエンジニアという2つの役職がありました。それらが一つに統合されて誕生したのが、「パイセン」という現在のロールです。「パイセン」だからって役職が上か、というとそうではなく、ただの役割の一つです。チーム内の開発がうまく回るようリーダーシップを発揮したり、営業やマーケなど他職種の橋渡しをしたりします。
チーム開発をうまく進めるために何をすべきか?は各パイセン自身が考えるもの。チームのミッションやメンバー構成によっても必要なことは変わってくるので、カッチリと決まっているわけではありません。中にはスクラムマスターのような役割を務めているケースもありますね。
横路: このロールができたのは今年4月。それまであったエンジニアリングマネジャーとリードエンジニアの役割分担が曖昧になってきたので、一度壊して新たに作り直しました。freeeではこういったことを頻繁に行っています。
なぜかと言えば、役職というのは最初からあるものではなく、チーム内で自然と果たしていた役割に、後からラベルが貼られるものだと考えているからです。チームやプロダクトの急速な進化にあわせ変化を行うことで、「その人が果たしていた役割とは何だったのか」と改めて考える機会が生まれ、より強いチームができるんです。
エンジニアが企画し、マジ価値を自ら考え抜いて顧客に価値を届ける楽しさ
Q: freeeではエンジニアが企画を行っているとか。
大橋: 会社全体のOKR(Objective and Key Result)から落とし込んで、どういう機能をどういうアプローチで作るかを自分たちで考えます。エンジニア発信で動けるというのは、freeeで働く上で感じる一つのやりがいと言えますね。
横路: なぜエンジニア自ら企画するのかといえば、僕らが作っているBtoBのプロダクトは、自分たちで使う機会がなかなかないものだからです。何を作っているのか?なぜ作るのか?が分からないままでは、いいものは作れない。作っている人自身が何を作っているのかを握りながら、スピード感をもってリリースできるというのが、僕ら開発チームの強みだと思っています。
Q: チームの全員が意見を言う組織だと、時にはぶつかることもあるんじゃないですか?
大橋: しょっちゅうですね(笑)。そういう場合はモックをみんなで触ってみたり、実際にユーザーさんを招いて使ってそのフィードバックを受けて決めるようにしています。
横路: 自分たちが作っているのはまだこの世にない全く新しいプロダクトなので、何が良いかは出してみないと分かりません。だからまずは出すことを重視しています。そしてそのトラッキングを見て、カイゼンしていく。「トラッカビリティ大事!」がみんなの口癖ですね(笑)これが、会社の価値基準の一つである『アウトプット→思考』という考え方です。今の規模になっても毎日、日に2〜3回はリリースしていますね。
Q: 一方で、スピード感を持って開発していくと技術的負債がたまるという問題があります。その点に関してはどう考えていますか?
大橋: 全社的なOKRとは別に、ここのコードをリファクタリングしたい、ここのテストに時間が掛かっている、このページの表示速度が遅い……といった技術的負債の解消も、エンジニアが提案することでOKRに組み込めるようになっています。
横路: 僕らはスタートアップだからビジネス的にスピード感を持って成長しなければいけない一方で、プロダクトの性質上、長く使ってもらわなければ価値がないとも思っています。長く速く価値を届け続けるために、メンテナンスにも投資し続けるという姿勢でいます。
技術的負債を返済する方法としては、OKRに組み込む形以外にも、日常の5%を自分が課題だと思うことに使っていい『フィーバー』という制度もあります。
大橋: 弊社ではバグのことを「ハッピー」と呼んでいるんですが(笑)、1日ハッピーを直す「ハッピー担当」というのがあるんです。回ってくるのは週1回くらいですね。チームを超えて自分の担当区分外の枠を超えハッピー改修をするので、いろんなプロダクトのコードに触れられて、学べることがたくさんあります。
また、『Qiita:Team』でのエンジニア同士の議論が白熱して、そこからタスク化するというケースが結構あります。僕自身も、入社直後に古いアーキテクチャに関する意見を『Qiita:Team』に書いたことがきっかけで、周りを巻き込んだ長期的なプロジェクトに取り組むことになりました。
チームや職域を超えて刺激し合う文化が、互いの成長を促す
Q: こうしてスピード感を持って更新される組織の中でも、エンジニア個人として思い描いたような成長は描けるのでしょうか?
大橋: そのために、パイセンとも相談して四半期ごとに個人的な成長目標も設定します。あまりパイセンから手取り足取り技術指導を受けることはありませんが、GitHubのプルリクエストや『Qiita:Team』で書いた日報には、チームの枠を超えて必ず誰かが反応してくれるという文化があります。そこから自主的に勉強会が始まることもあるので、成長したいエンジニアには理想的な環境だと思います。
横路: 弊社の価値基準には『あえて、共有する』というものもあります。自分が思っている以上に自分しか知らない情報があるはずだから、基本的に全て「あえて」共有しようという考え方です。そのため、全てのメール、経営会議の議事録まで共有されています。その結果、全部読んでいては日が暮れてしまうくらいのメールが来ることになるんですが(笑)、そのおかげで、自分なりの課題意識をもっていさえすればいくらでも学べる環境にあるとも言えます。
大橋: freeeにはフロントサイド、サーバサイドといった職域の区分がなく、開発する機能単位で考えることになるので、自然と興味や知識の範囲が広がっていきます。それに、ここにいるエンジニアはみんな、意識の上でも自分の職域を定めることがない。投げかけた質問に対して無視せず誰かしらが答えてくれる文化というのは、そういうところに由来しているのだと思います。
Q: 働くにあたって、大橋さんが大切にしていることとは?
大橋: 会社が大切にしている価値基準のひとつ『本質的(マジ)で価値ある』というところです。
技術はあくまで課題解決の手段の一つ。もちろんコードはきれいであるのに越したことはないですが、例えば今すぐにリリースすることに価値があるのだとしたら、その判断は変わってくるはずです。「お客さんにとって本質的な価値を提供するために、何をすべきか」と常に考えることが大切だと思っています。
Q: 技術は手段でしかないという考え方がある一方で、エンジニアによっては技術そのものを突き詰めたいという人もいるかと思います。そういう人の要求にも応えられる環境にあるんですか?
横路: そこはまさに今取り組んでいるところですね。技術は手段とはいえ、一方で磨くのに時間のかかる「匠の技」でもある。技術を突き詰めたいエンジニアもしっかりと育つ環境を作るための投資は、マジ価値の観点(本質的(マジ)で価値ある)からもしていきたいと考えています。
その一つの試みが、昨年末に立ち上げた『巨匠プロジェクト』。投票で選ばれたギークな「巨匠」は、「サービスの非連続な成長ポイントを作る」というミッションを果たすものであれば、マネジメントやコミュニケーションなど一切から離れ、1か月間何をやってもいいという制度です。アーキテクチャを自分で考えるところからやりますね。
Q: 『巨匠プロジェクト』の結果はどうだったんですか?
横路: 1か月後に作った内容をみんなの前でプレゼンしてもらうのですが、非常に内容が良くて、それはもう、みんな大興奮でしたね。この成果を実際に非連続な成長につなげていくところが今後の課題ではありますが、結果は大成功でした。
お客さんに対して本当に価値を生み出すと信じられるものであるならば、技術力をひたすら高めるという選択肢もあっていい。これは、エンジニアのキャリアとはどうあるべきか、それ自体をHackする試みとも言えますね。
社員の総意として作られた価値基準だから、本当に共有できる
大橋: と、ここまでいいことばかり言ってきましたが、当然うまくいかないこともありますよ(笑)。苦労して出した機能が迷走したり、同じプロセスを毎回手動で行っている無駄があったり……。
でも、そういうことをエンジニアらしく自動化することで解決したり、トラッキングをちゃんとすることで解決したりと、エンジニアが中心となってどんどん変えていける環境にあるのがfreeeのいいところだと思います。そうした環境が本当に実現していることは、「エンジニアの楽園」みたいな会社だと感じますね。
横路: それが『Hack Everything』という価値基準です。先ほど例に挙げた『巨匠プロジェクト』もそうですが、キャリアもワークフローもどんどんリファクタリングしていくというのは、非常にエンジニア的な発想だと思います。スタートアップであるからには事業もチームもどんどん大きくなりますから、自分自身をHackしていく必要もあるでしょう。
実は、こうしてたくさんある価値基準自体も、経営層から降りてきたものではなく、社員が自分たちで必要と考えて作ったものなんです。今も価値基準委員会というものを設けて、フェーズごとに中身を解釈し直したり、新しいものを作ったりといったことを継続的に行っています。
だからこそ、こうした価値基準は単に看板を掲げているわけではなく、freeeのメンバー全員が本当に共有しているものなんです。
Q: では、そんなfreeeをさらに伸ばすために、どんなエンジニアを求めていますか?
横路: 前職が同業か、などは特に気にしていないんですね。実際、元ゲーム会社の人が今いるエンジニアの3分の1を占めていたりしますし。前職や年齢にかかわらず、今いる環境でパワーを持て余しているような、熱意のあるエンジニアに来てもらいたいです。それが必ずしもプログラミングでなくてもいいので、情熱のままに短期間でものすごいことをやり遂げた、そんな経験を持っている人がいいですね。前回の「転職ドラフト」でも、その点を重視して選ばせてもらいました。
と言うのも、僕自身もそうなんですが、大企業で何年も働いているとその組織のやり方が刷り込まれてしまって、なかなかアンラーニングしづらくなっていく。常識を超えて成長したい、チャレンジしたいという人にとっては、それは非常にもったいないことです。
だったら、そのためにふさわしい環境を僕らが提供したい。そのための準備が、今まさに整ってきていると感じるので。
大橋: そういう熱意ある人が入ってくることは、中にいるエンジニアにとっても大きな刺激になります。シニアエンジニアたちもみんな、「下から突き上げられたい」と言っていますし(笑) 僕自身の成長のためにも、早くそういう人に入ってきてほしいと思いますね。
文:鈴木 陸夫
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