クラウドファクタリングという新しいビジネスを手がけるOLTA。先進の技術を元に、中小企業が保有している売掛金(請求書)を24時間以内の審査で現金化するサービスを展開しています。プロダクトの開発ではエンジニア陣のみが主導するのではなく、社内のメンバー全員が意見を出し合うプロセスを大事にしているそうです。
OLTAならではの開発の考え方や、プロダクトが目指す将来について、色々とお話を聞いてきました。
高家未登
取締役 CTO
神戸大学経営学部卒業後、野村総合研究所に入社。大手銀行のWebシステム開発におけるマネジメント・ディレクションを担当。2017年に大学時代の同期だったCEOの澤岻氏とOLTAを創業。
橋山牧人
エンジニアリングマネジャー
慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科卒業後、2009年楽天に入社。エンジニアリングマネージャーとして楽天市場の開発・運用に従事。「楽天スーパーセール」などの超トラフィックにおけるサービス維持を経験した。2017年より副業でプログラミングスクールのインストラクターを実施。2019年9月にOLTAへ入社、現職。共著に『親子で一緒につくろう! micro:bitゲームプログラミング』(翔泳社)
OLTAが目指す「経営者が事業に専念できる世界」
ー日本初のソリューションである「クラウドファクタリング」とはどのようなサービスなのでしょうか?
高家: ファクタリングは、中小企業から入金待ちの請求書や売掛債権を買い取ることで、売上の前倒しという形で資金調達をサポートするサービスです。その中でもOLTAはオンライン上(クラウド)で契約までの手続きが完結するところが強みです。
ー「借り入れ」や「融資」とは異なるそうですが…。
高家: ファクタリングは融資=借金ではなく、 売掛金という資産売却による資金調達の手段 なのです。だから、先に私たちが買取代金として運転資金を提供して、取引先から入金後に弁済してもらうというのが利用の流れになります。オンライン完結でのファクタリング提供はOLTAが国内のパイオニアなんですが、最近では類似のサービスを展開する企業も登場しておりこれから市場が大きくなると予想しています。
ファクタリングの 潜在市場規模は3兆円規模 程度※と考えており、OLTAは国内のパイオニアとしてマーケットをしっかり開拓していこうとしています。
※中小企業実態基本調査を元に試算
ー3兆円規模の大きなマーケットというのは知りませんでした!数ある競合のうち、OLTAの強みは何なのでしょう?
高家: 他社の多くは売掛先のリスクをヘッジするために「売掛保証」や「請求代行」をメインサービスとして展開していますが、私たちが行っているのは「資金調達目的の買い取り」です。だから全て オンラインで完結して、24時間以内に審査結果 をお伝えしています。
ー24時間以内に審査結果が分かるというのは、利用者にとっては助かる反面、すごく大変なことなのではないかと思います。
高家: そうですね、金融サービスの特性としてユーザーの利便性を追求すれば追求するほど運営側のリスクが高まる構造です。そのバランスをいかに取るかが、私達の挑戦だと思っています。
金融の領域ってよくレガシーと言われるんですが、その中でテクノロジーを活用することで 利便性とリスクテイクの両立 ができるんじゃないかと考えています。そのチャレンジが上手くいった時のインパクトが大きいのが面白い点です。
ー具体的にはどんなアプローチをされているのでしょうか?
橋山: 「ユーザーとのコミュニケーションをいかに迅速かつ手戻りがない形でやるか」と、「審査の時間をどこまで0に近づけるか」の2点にフォーカスして取り組んでいます。
例えば審査に必要な情報を提出してもらう時に、一部書類の不足や形式の不備などがあると、それだけで我々だけでなくユーザーにもコミュニケーションコストが発生してしまいます。そこで 誰でもスムーズに正しく書類を提出 できるよう、フォームを工夫したりOCRによる 自動読み取り や 画像認識・文字認識 などを活用して「人の手によるチェック」を省く仕組みなどにも取り組んでいます。
審査時間の短縮についても同様で、工数をかけて人間がチェックしている審査項目を自動化し、機械的に判断できる領域を増やしていく仕組みを色々と試しているところです。
ー自動読み取りや画像認識など新しい技術をたくさん取り入れるなんて、エンジニアにとっては魅力的ですよね。でも資金調達の審査と聞くと、金融に詳しい人が書類を確認したり、取引先を調べてOKを出すような属人性なイメージがあるのですが…。
高家: まさにその通りで、属人性をデータの力でいかに排除するかが肝になります。そもそも私たちはデータがないとビジネスができないんですよね。弊社はMUFG様の「アクセラレータ・プログラム」に採択されたことがきっかけにして創業した経緯があります。プログラムの支援の一環として、 銀行が保有する法人ビッグデータを審査モデルのベースとして提供いただけた というのが事業をローンチできた要因の一つです。
ーMUFGから法人データのビックデータを預かるなんて、なかなか出来ることではないですよね。
高家: はい、大きな一歩でした。そのデータをもとに与信モデルのバージョン1.0を作り、ビジネスをスタートすることができたんです。その後も自社の買取データを元に、モデルをアップデートし続けています。データの量が重要なビジネスでもありますから、 地域金融機関と提携 したり、 各種プラットフォーマーと連携していく パートナー戦略を進めています。
ーChatworkやfreeeと協力して新しいサービスを展開しているというニュースが記憶に新しいですよね。その他にも、金融機関と提携する動きがあったのは意外です。競合になったりはしないんですか?
高家: そう思われますよね。中小企業の与信を自動化、効率化していく挑戦は、テクノロジーの活用なしには難しく、金融機関の中にも、我々のようなFinTechスタートアップと組んで新しい事業を進めようと前向きな方も多くいらっしゃいます。直近では国内の金融機関の初事例として、 新生銀行様と共同運営する新サービス「anewクラウドファクタリング」 をローンチしました。ビジネスサイドで引き続き話を進めている金融機関も数多くあります。2020年はそういったプロダクトのリリースもできる年になるのかなと思ってますね。
ーそれはビッグニュースになりそうです!ちなみに今後、金融機関との連携はどのように展開していくとお考えですか?
高家: 全国にファクタリングを普及させる上では、金融機関様にブランドや集客を担ってもらい、システムやオペレーションなどを含めた広義のプロダクト部分は、全部OLTAがやっていくような世界観を考えています。SIerのようにそれぞれの会社にカスタマイズしたシステムを提供していくというよりは、 汎用的なプロダクトを金融機関に提供 していくことを検討中です。
ー面白そうですね!汎用性を高めることも「データを貯めること」につながるんですか?
高家: そうなんです。というのも個々にカスタマイズすると、それだけ開発にもコストがかかりますし、データを貯めるスピードも落ちてしまうので。それに我々は銀行の先にいるユーザーに向き合い、プロダクトの本来あるべき姿をしっかり見据え、ユーザーに届けていくことを大切に考えています。
ーOLTAがいかにデータを大切にしているかが分かります。そんなOLTAが「どういったデータを何に活用するのか」など、エンジニアにアピールできる部分は何かありますか?
高家: それでいうと今後は、今まで誰もチャレンジしてこなかった定性的なデータを与信に反映することにも取り組もうとしています。具体的な実例はお伝えできませんが、例えばイメージとしては 会社の位置情報と利用金融機関の相関性について分析 したりとか…。あとは従来の金融機関において、審査の担当者が経験や勘で判断していたことを、科学的に再現可能にしようというアプローチですね。企画段階からビジネスサイドと一緒になって「今まで金融でやってこなかった切り口」のデータ収集や活用を考えています。そんな企画ができることが魅力なのかなと思いますね。
橋山: 今まで活用してこなかったデータを扱うのは、エンジニアとしての力の見せ所だと思いますよ。
ーなるほど。今までお聞きした取り組みの結果、OLTAのプロダクトが広がった世界は、どんなものになっているとお考えですか?
高家: そうですね、 経営者の方が事業に集中できる世界 を作っていきたいと考えています。
これは一例なのですが、私たちの最初のお客様が、創業間もないのアパレル会社だったんです。誰もが知っているような大手ブランドとも取引をされていて、事業は絶好調だったのですが、仕事が増えるにつれ先行するキャッシュアウト(商品の仕入れなどの支出)も大きくなっていたそうです。ところが銀行からお金を借りようにも、創業間もない時点では融資の枠が小さく、また決算書が更新されるまでの期中に追加借入ができるわけでもなく、必要な運転資金を十分確保できない状態だったそうなんです。
そんなジレンマの中で見つけてもらえたのが、OLTAでした。サービスに満足してもらえただけでなく「おかげで案件がうまくいった、ぜひまた使いたい」と感謝してもらえたことが、我々の中での原体験になっています。
ーそれは開発者として嬉しいエピソードですね。そうした原体験から「経営者が事業に集中できる環境」という考え方につながっているんですね。
橋山: そもそも経営者は、ただでさえやることがいっぱいあると思うんです。それなのに従来の資金調達の方法では、煩雑な手続きが発生したり銀行に来店しないといけなかったりと、手間が掛かってしまいます。でもOLTAのプロダクトなら、その手間を一気に時短化できるので、経営者の方が本当に時間を割くべき「事業に集中できる環境」が実現できると思うのです。
さらにはそれが 中小企業の活性化 や 地方創生 などの大きなテーマにもつながるので、私たちは社会的にとても意義のあることをやっていると思っています。
メンバー全員で「なんでこれをやるんだっけ?」を考える
ーOLTAでは、日頃どのように開発を進めているんですか?
高家: エンジニアだけの閉じたチームで開発をするよりは、ビジネスサイドのアライアンスチームや法務のメンバー、そしてCSメンバーとも絡みながら開発することがOLTAの基本的な進め方です。
橋山: 例えば「銀行でこういう要件があるからこの機能を実装する必要がある」という事態があっても、 各領域のプロフェッショナルや金融出身のメンバー と一緒に考えながら開発を進めていれば「ユーザーの目線に立って本当に必要な機能なのか」とか「法的な根拠はあるのか、それとも単なる業界の商慣習なのか」と、話を切り分けて考えられます。
法的な根拠がないのであれば、その機能が必要なのは銀行の中の話です。なので機能の実装ではなく「銀行の中の決裁を通すためにはどういうロジックを組み立てていけばいいか」を一緒に考えていったり…という発展的な解決策も浮かんでくるというわけです。
ーなるほど。そういうふうに法務の方やCSの方とエンジニアが一緒に働くことの面白さってどういうところですか?
橋山: 今お話した例がまさにそうなのですが 「これ当たり前にやっているけど、そもそも何でだっけ?」 という観点は、エンジニアだけだと分からないんです。
でも、CSはユーザーの声や要望をたくさん知っているし、法務では法的な裏付けが取れます。銀行出身のメンバーは「この銀行はこういう事言っているけれども、うちの銀行はこうではなかった」というような内情を知っている。メンバーそれぞれの「良いとこ取り」ができるんです。
最近もエンジニアがCSのオペレーション業務を全て体験してみよう!という取り組みを行いました。その結果、日々オペレーションを担当しているCSメンバーにはない視点で「エンジニアからすると、ここってもっと改善できるよね?」みたいな所がたくさん出てきたんです。今後もエンジニアがちゃんと現場に入り、課題を発見して改善を回すことを続けていきたいですね。
ー色んなメンバーと協力しながら開発を進めるのは理解できる反面「コードを書く」という作業とは相性が悪い気もするのですが…。
橋山: その意味でいうと、私たちは ユーザーのニーズをしっかり理解して、それを設計に落とし込むこと に時間をかけて開発しています。だから利用者の声に耳を傾けることが不可欠なのはもちろん、CSのメンバーが実際にやっているオペレーションが分からないと開発ができないので、理解すること自体が業務の一部なんですよ。
ーなるほど。どうしてそのような考え方にたどり着いたのでしょう。
橋山: 金融を扱う FinTechでは、しっかり物を作らないといけません。 セキュリティも担保されていないといけないし、先程の銀行の例でも色々制約とかルール、言語化されていないものを含め気を付けるべき点は多岐にわたります。
だから私たちエンジニアは「自分たちで考えた一番良いものを作ればいい」というわけではない。そういった 複雑な状況でメンバーが一番良いと思った方法を模索 した結果、たどり着いたのがこのやり方だったんです。
ー納得しました!とはいえOLTAでは、業務委託のエンジニアも多いと聞いています。この考え方を業務委託の方々にも求めるのは難しそうな気もするのですが…。
高家: それについては、業務委託の方々もOLTAの社員と同じように接することが大事だと思うんですよね。私たちは、業務委託のメンバーに対して不必要な情報制限をしていません。それにタスクをお願いする時も、プロダクトのロードマップを全て伝えることはもちろん、会社のバリューである「With Why」の精神からも 「どうしてこれをしなきゃいけないのか」などの背景やビジョンもしっかり伝える ことで、みんなが同じ思考を持てるようにしています。
橋山: 実は先日、ちょっとしたトラブルが発生しまして。本来であれば外部サービスの復旧を待たないと対応できない事案だったのですが、エンジニアが自律的に役割分担をしたことで、外部サービスよりも5時間も早く復旧させることができたんです。私は基本的に、全体の音頭取りをしただけでしたね。
組織のアウトプットは、個々が持つスキルの掛け算
ーOLTAには、エンジニアだけでなく様々な経歴を持つメンバーがたくさんいることが特徴的ですよね。
橋山: そうですね、私たちも多彩なメンバーがいることが組織の強みだと思っています。例えば大企業出身者もスタートアップ出身メンバーもいるし、金融のドメイン知識が豊富だったり、法務に詳しいメンバーもいるので「ビジネスサイド強いよね」と言われるんですよ。
それに、メガバンクで活躍していた経験や銀行内にパイプを持っているメンバーがいるので、銀行のロジックとか金融機関の考え方とかを理解した上で大人なコミュニケーションや駆け引きができるというか、いわゆる寝技も使える方が多いんですよね。
高家: 私がビジネスサイドの面白いエピソードだなと思ったのが、銀行のトップにアポを取るために直筆の手紙を書いたことです。高級な和紙を買ってきて、社内で一番字が綺麗な人が手書きで書こう!と協力し合ったり。実際それがきっかけで商談に繋がったケースもあります。こういう発想は学生のベンチャーではなかなか思いつかないですよね。
私は 組織のアウトプットは、個々が持つスキルの掛け算 だと思っています。それぞれ違った強みを持っているからこそ、大きなアウトプットが出せるというか。
ー「組織のアウトプットは、個々が持つスキルの掛け算」という考え方って、とてもOLTAらしいですね。
橋山: でも、私たちにも課題がありまして。エンジニアメンバーはかなり優秀な人材がそろっているのですが、まだまだ人員が足りていなくて…。
高家: そうなんです。逆に言えば、ビジネスサイドと企画を検討する中で「本当に作りたい!」と考えているものは山ほどあるので、それを実現できる人が1人増えるだけで、OLTAのビジネスに与えるインパクトはかなり大きいです。
ーOLTAの成長を牽引できる絶好のフェーズなんですね。そんな中、転職ドラフトをお使いただきありがとうございます!
橋山: 転職ドラフトは、こちらが丁寧にレジュメを見てその人にあった課題を伝えた指名を打てば、会いたいエンジニアに会えることが魅力ですよね。
直近2回だと、 指名の承諾率は40% を超えています。転職ドラフトが出している承諾率のランキングだと、大企業が名前を並べている中でOLTAがランクインしているのは嬉しいですね。
ー承諾率40%というのは驚きの数字です!エンジニアにアプローチをする上で、工夫している点はありますか?
高家: まずは 全員分のレジュメをしっかりと拝見 することでしょうか。エンジニア陣で確認するレジュメを分担して、1〜2日かけてじっくり見ています。その後集まって「この人には絶対会いたいね!」というのを、みんなで話し合って決めています。
橋山: 先ほども少し触れましたが、 一人ひとり違った内容の指名 を送っています。テンプレのような指名だと受け取っても響かないですよね。
それこそレジュメにあるQiitaやGithubにあるソースコードまで全部見ていますよ。指名の段階で候補者の方からいただける情報をしっかり消化した上で「こういうメッセージなら興味を持ってもらえるんじゃないか」という風に指名の内容を練っています。
ーすごい!一人ひとりに対して、時間も労力もかけて真摯に向き合うエピソードから、OLTAの「採用への本気度」が伝わりました。
(取材・文/石川 香苗子)