エンジニアの間では、「アウトプット (業務外の技術的活動や成果) が転職時の評価に関わる」という意見もよく聞きますよね。
しかし、「アウトプットを公開する上で何が大切なのか」という点については、不透明な部分も多いように感じます。
転職ドラフトでもGitHubやQiitaなどをアピールできる機能があるので、「採用担当者がどこに注目しているのか」が分かれば、より的確なアピールができるのでは?
そんな風に考え、今回はリブセンスのエンジニア採用担当者に、採用時にどんな観点でアウトプットを見ているのかを突っ込んで聞いてみました!
海野拓(うんのたく)
大手Web企業数社にてサーバサイド開発に従事したのち、2014年に株式会社リブセンスに入社。
正社員向け転職サイト『転職ナビ』のサーバサイド開発・技術基盤改善を行うと共に、チームのエンジニアの評価・育成・採用など組織マネジメントを担当。
2019年から会社全体に活動の場を移し、全社エンジニア組織の改善施策やエンジニア採用を行っている。
アウトプットは加点評価
ーまず率直にお聞きしたいのですが…そもそもアウトプットって見ていますか?
海野: もちろん、見ていますよ。ただし、アウトプットがマストというわけではありません。アウトプットはあくまで加点評価だとわたしは考えています。
ーといいますと…?
海野: エンジニアの中には、技術的な取り組みをインターネット上で公開することが難しい人もいると思うんです。たとえば、社外秘のプロジェクトに長年携わっている人。
あと、年齢を重ねると、マネージャーになったり、コードを書くより人と関わる時間が増えていくんですよね。
そういう人にもフェアでありたいし、アウトプットしていないからダメということはないと思っています。だから、あくまで加点評価としています。
アウトプットのどこをみているのか?
ーでは、加点評価という話をふまえて、具体的にはアウトプットのどんな部分を見ているのでしょうか?
海野: アウトプットといっても対象は様々で、ものによって見ている部分も違いますね。企業によっても変わるので一概には言えませんが、今回はリブセンスの場合としてお話しさせていただきます。
ーお願いします。アウトプット先によって見るポイントにも差があると思うのですが、まずはGitHubについて教えてください。
海野: 正直なところ、やっぱり最初は「草が生えているか」を見ちゃいますね。
ーえ…さっきアウトプット頻度の少ない人にもフェアにって…確かに生えていないより生えてるほうがいいと思いますが、そこって本質なんですか?
海野: 草についてはあくまで「見ているだけ」で、生えていなくてもマイナスではありません。おっしゃる通り、本質は草が生えているかいないかではないので。
ただ、アウトプットの時期を知るために、「いつ頃草が生えているのか」は見ています。
ーなるほど。他にはなにを見ていますか?
海野: 書いたコードはもちろん見るのですが、まずはリポジトリを見ています。どういうリポジトリを持っているかや、フォークしているか。
数の多い少ないは気にしませんが、どのくらいコミットしているかは気にしますね。
あまりコミットしていないと、リポジトリを持っていても無意味になってしまいますし。
ーリポジトリがたくさんある人もいると思うのですが、ぶっちゃけ全部見るのって大変じゃないですか?
海野: たくさんのリポジトリがあっても見てます。でも、複数のリポジトリすべてを熱心に更新している人って、実はそんなに多くないんです。いたとしてもプライベートリポジトリになっていて見れないとか。
だから、見ることができるもの、見るべきものって実はそこまで多いわけではないと感じますね。
ー次にQiitaの見ているポイントについてはいかがでしょうか?
海野: Qiitaについては、いいねの数とかは正直そんなに見ていなくて…。
技術タグをまず見て、あとは内容重視ですね。
たとえば、「この人は、本当に技術がすきなんだな」「網羅的によく調べられているな」と読んでいて感じられるものは面白いなと思います。
ーなるほど。アウトプットとしてイベントなどでの発表資料を提出する方もいると思うのですが、これはどんなところを見ていますか?
海野: 内容からは、その人がどういったところに興味を持っているのかを見ています。
それと、技術的な取り組みを人前で簡潔に説明するには、しっかり準備をしないといけませんし、多数の発表提案の中から選ばれてたのならば、内容のユニークさや技術的な高度さも評価できると思います。
ーちなみに、発表資料でたまにすごく面白いものがあると思うのですが、そういう面白さとかって見てます?
海野: うーん、たしかに、わかりやすくて見ていて面白いのはすごいと思いますが、スライドはあくまで資料だと思っています。
スライドが普通でも、話し方や身振り手振りによって発表を面白くできる人もいるし、逆にスライドが面白くても発表はそれほどでもないこともあるし。
資料としてロジカルに話が進んでいるかは見ていますが、笑いとしての面白さは気にしていないです。
考え方やトライが見えるアウトプットは高評価
ーアウトプットを見ていく中で、コレは良かった!評価につながる!と感じるのはどんなものですか?
海野: 突っ込んだ技術を自分で試行錯誤してやろうとしていることが分かるものは、評価につながりやすいですね。
OSSを作っているとか、既存のOSSにプルリクを送ったことがあるとか、そういうのを見ると「お!」と思います。
ブログなどにも言えますが、技術に対して自分が思ったことをまとめたり、その技術に対してこうやってみたというトライがあるのは加点評価になりますね。
ーどんな内容だと評価されやすいのでしょうか?
海野: 例えば本を読んで感想を書くときには、共感した部分や、ここは納得いかないと思ったところが書いてあるといいですね。あと、チュートリアルよりは「自分でプログラムを組んでみた」みたいなモノのほうが面白いです。
どちらも吸収した内容をしっかり自分の中で噛み砕いて理解しようという姿勢が感じられます。
ー確かにその姿勢は大切ですよね。では逆に「う〜ん」と感じるアウトプットってあります?
海野: 評価が下がるというわけではありませんが、「○○入門」とか「○○HelloWorld」みたいな簡単なものばかり並んでいるのは、評価対象にはしていません。
たとえば、それがだいぶ昔に書かれたものであれば気にしないのですが、1年前とかだと、「最近その技術をやり始めたのかな?」と思いますし、即戦力としては疑問を感じてしまいます。
あと、GitHubの場合、草を生やすことが目的になっている人がたまにいます。
しっかりコミットできていればいいのですが、1行改行してコミットとかもあったりするので、草が生えているだけではやっぱり評価できないですね。
ーちなみに、論文を送ってくださる方もいると思うんですが、それも評価に繋がります?
海野: 機械学習エンジニアとか数学とシステムが明確にリンクしている技術領域では、評価対象になりますね。
わたし自身は専門外なので、明確な判断はできませんが…。
リブセンスでは専門分野の社員に評価してもらっています。
アウトプットから実力の判断は難しい?
ーGitHubを見るときには、コードの書き方レベルまで見ているものですか?
海野: 見ていますね。
ただ中身というよりは、どういったものをどのくらいのメソッドで、どのようなコメントを残してコミットしているかなどを見ています。あとは、コードの綺麗さとかも見ますよ。
「コレとコレとコレをするために〜」と一つのメソッドで書いてあると、コレは分けられるな〜とか。あと、余計な条件分岐とか入っていると「あ〜…」ってなります(笑)。
逆に、結構ボリュームのあることやってるのに数行でまとめてたりすると「すごいな〜」って思います。きれいにまとまったコードって見てて気持ちいいですよね。
ーそういうところって、エンジニア採用ならではの評価ポイントですよね。アウトプットの評価ポイントは今のような「美しさ」も重要だとは思うのですが、実力的な部分も分かるものですか?
海野: そこですよね。確かに美しさはアウトプットを見て判断できるのですが、プログラムから見える部分ってあくまでその人の一部でしかないと思うんです。
アウトプットが良くても、会ってみたら「ウチにはマッチしなさそうだな」っていうこともありますし、そういう人はアウトプットすること自体が目的になっている場合もあったりして…。
だから、アウトプットだけで実力を判断するのは、正直なところ難しいと思います。
ただ、意外とアウトプットから人間性は分かったりするので、リブセンスの場合はそのあたりもよく見ています。
ー人間性??GitHubやQiitaからですか…?
海野: 実はアウトプットってTwitter などのSNSも含まれているんです。
Twitter でイベント参加履歴を公開していたり、参加したイベントについてハッシュタグをつけてツイートしていたり、そういうのをナチュラルにできる方はいいなと思います。
レジュメや職務経歴書でアウトプットを補う
ー少しアウトプットから離れてしまいますが、レジュメや職務経歴書についても聞いてみたいです。
海野: どうぞ。やっぱり転職活動では、レジュメや職務経歴書も大切ですからね。
ーレジュメや職務経歴書を書く上で、ユーザーが注意すべきことってなんですしょう?
海野: 自分が今までにやってきたことを、明確に分かりやすくまとめられるかが大切だと思います。
たとえば、技術力や能力をアピールすべき部分で、自分が携わったプロジェクトの概要を書いてしまう方がたまにいます。自分がやっているのは一部なのに、全部に技術タグをつけて羅列していて…。それだと、その人が何をやっていたのか分からないのでもったいないですね。
自分がやったことを正しく説明できていない証と捉えてしまうこともあります。
ー自分がやったことを正しくアウトプットする重要性は、レジュメや職務経歴書だけでなく、転職活動全体に言えそうですね。
海野: そうですね。自分がどの部分で誠心誠意対応したか、起きた問題にどう対処したか。たとえその問題が乗り越えられなかったとしても、そこに行き着くまでの過程をしっかり伝えてほしいです。
あたりまえのことですが、最終的なオファーは、レジュメ・職務経歴書・その他のアウトプットと総合して判断してします。
リブセンスの場合は特に、レジュメに共感できたか、創意工夫があったか、技術が好きか、そしてプロジェクトに対してオーナーシップを持ったかなどを大切にして見ています。
ちなみに、これまでたくさんのアウトプットを見てきましたが…GitHubからオーナーシップはわかりませんね。
ーわからないんですね(笑)。レジュメ・職務経歴書・その他のアウトプット、それぞれの特性をしっかり理解した上で、自分の実力や魅力を伝えていくのが大切だと。
海野: そうですね。アウトプットはたしかに大切です。
ただ、エンジニアの価値はそれだけではないし、エンジニアとして、その人としての魅力は、アウトプットだけで伝わるものではないと思っています。
「評価してもらいたい相手」に向けたアウトプットを行う
ーGitHubやQiitaのアカウントだけを公開するよりも、「わたしのアウトプットはここが自慢です」みたいにアピールしてくれるとわかりやすいと思うんですが、どうでしょう?
海野: たしかに、「この内容が刺さる人に評価してもらいたい」という思いでアウトプットを作ってアピールするのはありだと思います。
「ここを見てほしい」とアピールしてもらえると、わたしたちも評価しやすいですし。
ただ、実力面以外の問題で、自信を持ってアウトプットをアピールできないという方も中にはいるかも知れません。
ーというと…?
海野: インターネットでのアウトプットだと、どうしても大規模開発やモダンな技術がもてはやされやすいと思うのですが、そうすると「マイノリティだから…」「レガシーだから」と萎縮してしまうエンジニアの方もいらっしゃいます。そういう理由でアウトプットをしないのはもったいないと感じています。
新しい会社でその技術や考え方が活用できたり、評価してもらいたい相手へのアピールになるのであれば、世の中のマジョリティはそこまで気にせずにアウトプットをして、自分を評価してもらいたい人に向けてアピールしてほしいですね。
世の中にはまだまだレガシーなコードもそれなりにありますし、実際にそれらをメインとして使っている企業もありますよね。
マジョリティでなくても、どこかの誰かの役に立つ可能性は十分にあるし、わたしとしては、その頑張りを感じると応援したくなるんです。
アウトプットで加点評価!ただし、なくてもマイナスではない。
ー最後に結論として、ユーザー側はアウトプットをどのように捉えればいいのでしょうか?
海野: アウトプットはしたほうがプラスになることがほとんどです。
より良いマッチングを求めるなら、自分が評価して欲しいところをアウトプットとしてまとめておくことは有効な手段であり、企業とのマッチング確度も上げることができるでしょう。
ただし、繰り返しになりますが、アウトプットがないからといってマイナスにはなりません。
アウトプットはあくまで選択肢の一つなので、「自分はアウトプット無いから転職できない…」と思う必要はないんです。
新しいことに挑戦したい気持ちを大切にして、一歩を踏み出してみてください。