「筋肉エンジニア」をご存知だろうか?
日がなPCを前に座って仕事をしている「ITエンジニア」と「筋肉」は言葉としても対極で、それが合体していることに違和感を覚える人もいるだろう。しかし、超肉体派の筋肉エンジニアは実在する。
彼らは、普段は仕事としてプログラムを書きつつ、プライベートでは100kg以上のベンチプレスを上げ、ときにはコンテストにも出場している。
ということで、今回はそんな筋肉エンジニアが、何のために筋肉を鍛えているのか? どんな生活を送っているのか? その筋肉は仕事で活かされているのか? などなど気になることを、まったく筋トレに縁がないエンジニアである私、megayaが取材してきた。
なおこの企画は自分のリアルな市場価値がわかるエンジニア向け転職サービス「転職ドラフト」の提供だ。詳細は不明だが転職ドラフトでは筋肉エンジニアを応援しているらしい。
筋肉エンジニアにとってビッグ3は名刺代わり
お話をうかがうのは、筋肉エンジニアのK-BOYさんときゅーいさん。
ゴリゴリのマッチョを想像していたら、信じられないくらいのイケメンがやってきた。想定外だ。しかし…
脱ぐとやっぱりムキムキなのである!!
K-BOYさん(写真左)
@kboy_silvergym
理工学部を卒業し、IT系の企業にWebディレクターとして入社。半年後、自身の手で開発をしたいとiOSエンジニアに転身。現在は創業メンバーの1人として、GRAFFITYというARアプリを開発している。
筋肉エンジニアを公言し、フィットネスブログ「SILVER GYM」も運営する。
きゅーいさん(写真右)
@library_fit
法学部を卒業後、SIerでプロジェクトマネージャーを4年ほど務め、スタートアップに転職。現在はフリーランスのエンジニアとしてサービスを展開する傍ら、受託開発なども行っている。トレーニング記録アプリLIBRARYも運営。
K-BOYさんは「筋肉.swift」という勉強会を主催しており、きゅーいさんとはその勉強会で知り合いになった。まさしく筋肉とエンジニアリングによって結ばれた2人だ。
筋肉.swiftにならって、今回のインタビューもプロテインで乾杯してから始まった
まずはじめにビッグ3(ベンチプレス、スクワット、デッドリフト)を教えてもらえますか?
ベンチプレスは110kg, デッドリフトが160kg, スクワットが120kgです。
ベンチプレスは105kg, デッドリフトが160kg, スクワットが160kgです。
そう、筋肉エンジニアにとって乾杯はビールではなくプロテインが常識。そしてビッグ3は名刺代わりだ。
実際、「筋肉.swift」では、60名を超える参加者がプロテインで乾杯し、発表資料には必ずビッグ3の数値が記載されていたという。
megaya(記事を書いてる人)
エンジニアをやりつつライターをやっている。ジムに入会したものの6ヶ月まったく行かないで辞めたことがある。プロテインを飲みながら取材するのも人生で初の体験。
本当にすごい体ですね! 腹筋なんて仮面ライダーを見ているようです。
いえいえ、僕なんて全然ですよ。今はそれほどガチにトレーニングしていないので。
その肉体で「ガチじゃない」は謙遜では……? トレーニング内容を教えてもらっていいですか?
あんまりやれてないのですが、最近はこんな感じですね。
きゅーいさんが開発して公開している筋トレ記録アプリ「library」より
3桁の数字が並んでるのに、これで「ガチじゃない」んですね……?
上には上がいますからね。
この日の取材は中目黒のプライベートジムで行われた
筋トレでだいたいの悩みは解決する
ただ「エンジニア」って職業だとほぼ筋肉って使わないじゃないですか? 椅子に座って作業する時間が一番長いわけですし。仕事で役に立つことってあるんですか?
筋肉エンジニアはプロテインにもエディタと同じくらいのこだわりを持っている
役に立ちます!
筋トレすると悩まなくなるから、だいたいのことは解決しますよ!!
……いやいや!!いくらなんでも筋肉ではどうにもならない問題ってあるじゃないですか? 人間関係だったり、原因がわからないバグだったり、そんな悩みの方が多いんじゃないですか?
筋肉がつくと自信もつくので、人間関係のストレスもかなり少なくなるんですよ。
会社での発言力も自然とあがりますし、会議でいろいろと言われてもそれほど落ち込んだりしなくなります。
みんな心の中で「こいつに何か言われても戦ったら俺の方が強いし」みたいなことは潜在的に思っているはずなんですね。
確かに、ここで「いや! あなたは間違っているよ!」と私がいくら大声で怒鳴ったところで、K-BOYさんが上を脱いだら2秒で謝りますね。
本当の意味での「パワーワード」は筋肉が十分にある人の言葉なんだなと思った。私の記事には筋肉が足りなかったのかもしれない。
人間だって結局は動物なので肉体の強さはやっぱり大事ですね
プログラムを書いてるときにも役に立ちますよ。作業が行き詰まったときに「わかんないから筋トレしよう!」ってジムに行くと、リフレッシュされて頭が切り替えられるので、その後の作業がかなり捗ります。
体を動かしているのに頭のリフレッシュになるのはおもしろいですね。
トレーニングでは100kg以上の重りを上げることもあるから、その瞬間って集中するしかないんですよ。余計なこと考えてたら死ぬ可能性すらあるので。そうすると、そこで仕事のことを完全に忘れられて、一気に悩みから解放されますね。
プロテインで渇いた喉を潤すK-BOYさん
あと、取引先の人が筋トレしていると一気に仲良くなれるという利点もありますね。初対面でも体を見たときに「こいつやってる……」と分かるので(笑)、帰り際に「何かトレーニングしてますよね?」と聞いてみたり。
なるほど! 成果がその人の外見に出てくるからわかりやすいんですね。
そうなんですよ。おもしろいのが、トレーニングしている人同士って見ただけでなんとなくお互いのレベルがわかるんです。「この人は自分よりすごい」とか「自分の方が上だな」とか。
確実にこのインタビューの最初で「戦闘力…たったの5か…」って思われてたと思う……。
筋トレは自分の身体を使ったサービス開発の実験
ここからは普段やっている筋トレを見せてもらいながらインタビューすることに。
このバーベルは60kgにセットしているが、この重さだとウォーミングアップにすらならなかったらしい
仕事に役立つのはわかったんですけど、エンジニアってやっぱりインドア派の人も多くて、そもそも筋トレに向いていないんじゃないでしょうか?
いえ、エンジニアこそ筋トレに向いていると思います。筋トレって闇雲にやるものではなくて、原理原則に沿って少しずつ自分のものにしていくものなんです。
筋トレのメニューを自分でカスタマイズして、それを忠実にこなして……というPDCAが上手く回れば、確実に目に見える結果になっていきます。このサイクルはプログラミングにも通じるところなので。
そうなんです。筋トレって、自分の体を通してPDCAがどう回っているのか確認できるので、つまりサービス開発を体で体験できるんですよね。体型も違いますし、自分に合ったやり方は自分で見つけていくしかないんですよ。
まさか筋トレがサービス開発につながるとは……!なぜ数ある運動の中で、ランニングやボルダリングではなく、筋トレを選んだのですか?
筋トレが一番コスパがいいんですよね。短い時間で大きな刺激を体に与えることができますから。この考え方もエンジニアっぽいかなと思うんですが、最小の投資で最大のリターンを得るには筋トレが最適なんですよ。
勘違いされやすいんですけど、筋肉エンジニアって熱い体育会系じゃなくて、思考としては冷静で論理的な人が多いんです。そもそもエンジニアって論理的な人が多いですよね?そのあたりもエンジニアが筋トレに向いている理由だと思うんです。
私の中のタンクトップ・オブ・ザ・イヤーが今日決まった
たしかにお二人と話していると、戦隊ヒーロー的に「真っ赤な情熱」というより「青い静かな闘志」という印象ですね。ちなみに筋肉エンジニアに共通の特徴とかあるのでしょうか?
そうですね。仕事が早い人が多い気がします。筋トレは短時間に集中して行う必要があるので、集中力がつくんです。
あとは、言語化が上手いので、仕様の落とし込みが上手いんじゃないでしょうか。フォームを教える際、体の細かい動きの言語化が必要ですよね。結果として、仕様を落とし込む時の言語化能力も高い人が多いんじゃないかと思っています。
それってつまり、筋肉エンジニアは優秀ということですか?
筋肉エンジニアであれば優秀というわけではないですが、優秀な人が多い印象ですね。筋トレ好きは凝り性な人が多いので、技術を突き詰めている人が多い印象です。実際、筋肉.swiftにもかなり技術力の高いエンジニアが来ていました。
やっぱり習慣的に筋トレできる人ってストイックな人が多いんですよ。朝のゴールドジムなんて優秀そうな人がたくさんいますからね(笑)
筋トレを支える技術
K-BOYさんは今どのくらいのペースで筋トレしているんですか?
僕も今はそんなにガチでやってる方ではないので、出勤前に週5でやっている感じですね。
週5!?
去年は大会出るためにかなり絞ったので、そのときはけっこうやっていたんですけどね。それでも大会ではガチでやっている人には勝てませんでしたね。
ろくろポーズもアスリートにしか見えない
もはや「ガチ」って言う言葉の意味がわからなくなってきました……。筋トレをする人は謙虚になるのでしょうか?
「筋肉.swift」の参加者にはベンチ130kgを上げる人もいましたから。僕なんてその中でもせいぜい「中の上」とか、そのあたりですよ
そもそもお二人はいつ筋トレを始めたんですか?
大学生のときにジムで働いていて、お客さんを見ているうちに「あんな筋肉になりたいなぁ…!」と思って大学3年生くらいから始めました。今年27歳なので6年くらい続けてますね。
僕は中学高校と競泳をやっていたので、それなりに良い体だったんです。大学入ったときに「このまま筋肉を落とすのはもったいないな」と思ったので、そこからずっと続けて10年くらいやっていますね。大学のときには重量挙げ部の友達がなぜか多くて、その友人たちに付き合ってトレーニングしてました(笑)
「プロテインのCMか!」とツッコミたくなるくらい爽やか。筋トレすると人はイケメンになるのかもしれない
筋トレを続けるのって大変で、私も思い立っては三日坊主で終わっているんですけど、お二人は「よしジム行こう!」ってモチベーションややる気をどうやって維持してるんですか?
僕はさっき言ったように今は朝に行くと決めてますが、そもそも筋トレってモチベーションややる気で続けようとしちゃだめなんですよ。「今日はジム行こうかな?」ではなく「あ、今日は背中の日だ」って考えればシンプルにジムに行くじゃないですか?
逆にシンプルすぎてまったく共感できないです……。
僕の場合はフリーのエンジニアとして働いているので、自宅で仕事をしながら、お腹空いたらご飯食べにいくついでにジムに行ってますね。買い出しのついでとか。
コンビニに行くようなものなのか……。やっぱり「ジム行くぞ!」とやる気を出す感じではないんですね。
ジムのためだけに外出することはないですね。本当に「ついで」です。だからジムが家の近くか、会社の近くにあるのは大事ですね。電車に乗っていくとかはありえないので。
僕も同じですね。今はジムが家から近いから朝に筋トレしてますけど、前の職場だと会社の近くにジムがあったから昼休みに行ってました。
ジムの場所によって生活リズムが決まるんですね!?
それはあるかもしれないですね(笑)
不動産屋に行くときも、いろいろ条件を聞いたあとに「ちなみに、近くにジムってありますか?」とつい聞いてしまいますね。
タンパク質が切れると筋力が落ちるので、常に持ち歩いてお腹が空かないようにしているということで栄養バランス食品を見せてもらった
筋トレを続ける理由は何でしょう? やはり自分の肉体が好きだとか?
習慣になっていることが大きいですね。やらないと気持ち悪いんですよ。筋肉にハリがないというか、筋肉が固くなる感覚がするんです。
あとは、やっぱり筋トレした後って良い気持ちになれるんですよ。脳内麻薬が出てる的に。
僕も同じですね。やってないと筋肉が萎んでいくのがわかるので「そろそろ腕もやってあげないと」って感覚になります
あー、わかります!
「最近ちょっと足やってあげてないなぁ」とかそういう感覚にはなりますよね
筋肉のことを「友達と遊んであげる」みたいに語る二人
重さがアップしないとか行き詰まることもあると思うんですが、そんな時はどうしていますか?
筋トレもコードもレビューしてもらうことが大事だと思いますね。きれいなコードを書きたかったら、きれいなコードを書けるエンジニアにレビューしてもらう。重さがアップしなくなってきたら、自分より重量挙げてる人にレビューしてもらう。筋トレもエンジニアリングも一緒なんですよ。
キャリアが変わっても、筋肉は裏切らない
筋肉エンジニアの生態について少しづつ理解できてきました。最後の質問なんですけど、筋肉エンジニアとして今後どのようなキャリアを思い描いていますか?
将来的にはアメリカに行って働きたいと思っています。一度きりの人生なのでチャレンジしてみたいですし、エンジニアとして向こうで働くことは絶対に自分のプラスになると思っています。そのために今は英語の勉強も毎日していますね。
もちろん向こうに行っても筋トレは続けます。アメリカの人は身体も大きいから、もっと鍛えて負けないようにしたいですね。それに、言葉が通じなくても筋肉でわかりあえると思うので。国境を超えても筋トレは裏切りません。nullで落ちたりしませんし。
僕はあまり思い描いているキャリアとかなくて、むしろ3年後なにをやっているのかわからないくらいです。
ただそのわからない未来の中で「動ける身体であること」は大事なことだと思っています。若い身体であることに越したことはないですからね。なにが起きても対応できるように、肉体だけは常に鍛えておきたいとは思っています。
なるほど。確実に思い描ける未来のためにも、予想ができない未来のためにも、筋トレは役に立つということですね。本日は、どうもありがとうございました!
転職しても、筋肉は活きつづける
このインタビューを通して確実にわかったことがある。K-BOYさんが海外で働くことなっても、きゅーいさんがフリーエンジニアからどこかに勤めることになっても、二人の筋肉は変わらず鍛え続けられていく。それだけは確かだろう。
「今の職場は忙しすぎて筋トレする暇もない」
「筋肉エンジニアにもなりたいしキャリアップもしたい!」
そんな人には転職ドラフトを試して欲しい。転職成功を機に筋肉を鍛え始めるのも人生だ。
なお、この記事には筋肉という単語が43回登場している。
(取材・執筆:megaya/写真:小高雅也)