2017年10月、スタートトゥデイがVASILYの全株式を取得して完全子会社化したというニュースに驚かされたばかりですが、この1月にはスタートトゥデイグループより研究所の発足、そしてCEO金山氏のプロジェクトリーダー就任が発表されました。
ファッションとテクノロジーを融合させることで、これから何をしようとしているのか。「ファッションを数値化する」というミッションの謎、その実現にあたりどんなエンジニアを必要としているのか……。今回転職ドラフトでは、VASILYを訪問しCEOの金山氏より話を伺うことができました。
株式会社VASILY
代表取締役CEO
金山 裕樹
ヤフー株式会社にてX BRANDなどのライフスタイルメディアの立ち上げを行った後、2008年に株式会社VASILY(ヴァシリー)を設立。VASILYのアプリ「IQON」(アイコン)はファッションアプリとして世界で唯一AppleとGoogle、両社のベストアプリに選出。会員数は200万人を超え、ファッション感度の高い女性ユーザーに支持されている。「いちばんやさしいグロースハックの教本」(インプレス)の著者。
スタートトゥデイと手を組む VASILYが目指すのは…?
―スタートトゥデイによる子会社化に続き、スタートトゥデイ研究所の発足も発表されましたね。
金山: 今自分はスタートトゥデイ研究所という研究開発機関のプロジェクトリーダーを務めているんですが、ここからスタートトゥデイのテクノロジーをさらに加速させて、ファッションテックのトップランナーとして世界をリードする発明を産み出していけるような体制にしていこうと考えています。
―研究所についても謎が多いですよね。何をミッションにしているのかなど、伺いたいことがたくさんあります!
金山: 研究所のミッションは「ファッションを数値化する」ということです。ファッションをサイエンスする、これをやっていきたい。まだ人類が誰も解いていない命題に対してトライしたいというのがまず前提にあります。
―「ファッションを数値化する」…とは一体どういうことなんでしょうか?
金山: 例えば「センスがいい」と言ったりしますが、それって感覚的なものでどういうことなのかよくわからない。再現性が無いんですよね。だからビジネスとして捉えづらい。
ハリウッドの映画って、どのジャンルなのか、誰が脚本を書いているのか、誰が出演するのか、予算はどれくらいかといった要素から、だいたいこれくらいの興行成績が出るだろうというのがわかるらしいんです。どれくらい信頼できるものなのかは別として、これってサイエンスですよね。だからお金も集められる。
つまり映画も、ヒット作を意図的に生めるようなサイエンスになりつつある。ファッションも「センスがいい」「似合う」「カワイイ」といった感覚的なものがバチッと数字で出せて、それを提供することができたら気持ちよくないですか?「オシャレだね」と言われてイヤな気分になる人はいないですよね。
機械に意思決定を代行させる意味
―壮大過ぎてなかなか理解が追いつきませんが、新しい体制を築く上で『IQON』や『SNAP』といった既存のサービスは終了してしまうんでしょうか?
金山: いえ、もちろん続けます。これまで培ってきたテクノロジーを横断的に活用できるような体制を組み、よりスケールアップして社会に価値を提供できるようにしていこうと考えています。
もともと『IQON』では、人と服をうまくマッチングさせる手段としてCGMを採用していたんですが、ここ数年CGMが担っていた部分を機械で代替できないかと考え、データサイエンスを用いた自社開発のアルゴリズムによってマッチングさせるサービスに変わっていきました。
その結果、IQONは使えば使うほどその人のパーソナルなフィードが形成され、人を介することなく、人対機械の関わりの中で発見が生まれるサービスになっています。
―ちなみに私はファッションに対しての興味が薄い人間なんですが、そんな人でも機械によるマッチングの恩恵を受けられるのでしょうか?
金山: むしろそういった人のほうがメリットを享受できると思います。二元論で話してしまいますが、好きなものって検索して買うのが好きだったりしませんか?
例えば自分は服が好きなので、検索して買いたいんです。30インチのブルーのデニム、8,000円の価格帯で絞り込んで300本出てきたとしても、その中から1本を選ぶのが楽しい。検索して選んでいるときが至福なんです。
ただ、好きじゃないけど必要なものって、できるだけいいものを期待するという根源的なニーズはあるにしろ、選ぶまではめんどくさいと思うんです。それは機械が選べばいい、そういうことです。
―なるほど!
例えば、グルメじゃない人がデートのお店を探して意思決定するのはめんどくさい。でも失敗したらイヤだから、機械に意思決定してもらうのが楽なんです。
インターフェイスは、もういらない
―機械とのやりとりに必要なインターフェイスは、どんなものだと考えているんでしょうか?
金山: いわゆるGUIみたいなものは必要なくなるかもしれません。テキストの入力などは音声による入力のほうが自然だし、楽だと思うんですよね。
会食の店を予約するとして、「昨日は肉を食べた」「予算はひとり5,000円で」と条件や前提になる情報を伝えて、あとは「なんかいい感じでお願い」と言えば済むなら、そのほうが早いですよね。何なら、Facebookがこのまえ発表したような、音声ですらなく脳波を検知して入力できるようなインターフェイスのほうが、人間と機械の距離はずっと近くなるのではないかと思います。
よく言われるように、人はドリルじゃなくて穴が欲しいんです。アプリが欲しいんじゃなくて、その先にある課題を解決したい。そのプロセスにおけるUIは大事だと思いますが、意思決定の代替という意味なら必要ないんじゃないでしょうか。
―確かに…。意思決定の代替にインターフェイスがいらなくなると、我々が提供しているような転職サービスはどうなっていくんでしょうね。
金山: 転職とか結婚はライフイベントとして大きいので、人間が関与したい部分は大きいと思います。
でも、できるだけ関与したいと思っているのは自分たちみたいな旧世代の人間だけで、精度さえ高ければ、これから産まれてくる人工知能ネイティブの人たちは特に抵抗感はなく使えるのではないでしょうか。「そろそろ転職時期だと思うので、もうピックアップしておきました」みたいな世界がくるかもしれませんね。
ファッション×テクノロジーの融合で生まれる新しい体験
自分たちは今までもこれからも、IQONやVASILYで追求してきたデータサイエンスの先に、サイズがぴったりだったり、その人に似合っていると言える服を着ることで「服を着ることってなんて気持ちいいんだ、なんて自信が湧いてくるんだ、なんて素敵なことなんだ!」と感じられる体験を、提供していきたいと考えています。
―服を売りたいのではなく、気持ちのいい体験を売っているということなんでしょうか。
金山: 我々はファッションというドメインで事業をやっていますが、届けたい価値はファッションを超えた先にあるものです。「オシャレ」とは何か、をずっと考えていて、それをちゃんと明確に定義して、再現性のあるかたちでビジネスをしていきたいなと思っています。
スタートトゥデイが運営するZOZOTOWNの年間購入者数は720万人で、物流も自社でやる技術力を持っているのですが、ファッションってなかなかテクノロジーと結びつかないんですよね。これから自分たちが行っていく数々のサービス提供や発表を通じて、そのイメージを変え、より実態に即したものにしていきたいですね。
ファッションを数値化するエンジニアの働き方
―いまVASILYにはどれくらいの社員がいるのでしょうか。特にエンジニアやデザイナーといった開発サイドについて伺いたいです。
金山: インターンも含めると30名ほどですね。その内、約80%が開発サイドの人間です。
―80%も!ちなみに、その30名でひとつのチームなんでしょうか?
金山: 一応部署はありますが、デザイン部、ビジネス部、開発部という感じでざっくり分けています。もともと『IQON』という単一のプロダクトをつくっていた時期が長いので、その名残もありますね。
今はプロダクトが複数あるので、プロダクトごとのチームにしようと思えばできるんですが、30人くらいならひとつのチームでいけるだろうと考えています。
自分の感覚として、40人くらいまでならひとつのチームでいけると思います。日本人って、高校生くらいまではだいたい1クラス30〜40人くらいの集団で育ってきているので、これくらいならうまくできると思うんですよ。60人とかになると個々が未体験なゾーンなので、もう少し組織上の工夫が必要でしょうけど。
―開発スタイルについても教えてください。
金山: 基本はアジャイルです。スクラムっぽいこともしますが、明確にスプリントを切ってガチガチにはやっていません。開発が終わって何かやろうとなったときに、みんなでバッと集まって「何やる?いつまでに?じゃあそれでいこうか」といった感じです。
すごく長いロードマップがあって、スプリント(1)、スプリント(2)、スプリント(3)…と決まっているのではなく、むしろずっとスプリント(1)を繰り返しているような状態ですね。
―企画に関してはどうでしょう、エンジニアの発案による企画が走ることもあるんでしょうか?
金山: あります。誰が発案者なのかはあまり気にしていません。バックエンドの技術的な負債を返済するような企画が出てくることや、そんなに多くはないですがユーザーが直接触れる部分に関してもエンジニアが起点となる企画が出ます。言い出しっぺは誰でもいいと思っていますね。
そしてプロジェクトが「よし、やろう!」となったら、プロジェクトマネージャーはKPIを設計してビジネスに与える影響を数値化しますし、デザイナーはUI/UXをつくってユーザーテストもする。エンジニアはそれをつくって実装まで進めます。
―ユーザーテストなど、ユーザーを知ろうとする文化は企業として根付いていますか?
金山: 根付いていると思っています。少なくとも社内のドッグフーディングは絶対にやっていますね。ユーザーを呼んでの大規模なテストは最近あまりできていないですが、プロダクトマネージャーやプロジェクトマネージャーに関してはわりとゲリラ的にやっています。もっとやっていかないといけないですね。
―ユーザーの行動履歴をプロダクトの改善に活かすフィードバックループなどは、うまく回していくのが難しいところだと思います。
金山: そうですね。自分たちはプロジェクトをスタートした時点でKPIを決めるようにしています。この数字がぜったい動くという前提で集計のシステムを組んで、それをBIツールで勝手に追っていくようにしていますね。
むしろ、プロダクトの改善をやって何の数字が動くのかわからないようなことはできるだけやりたくない。「なんかよさそうだからやってみよう」はやめよう、もっと事前に考えようということですね。自分たちが戦略上動かしたい数字にヒットするのかをきちんと考えるようにしたいと思っています。
エンジニアの評価は、必ずエンジニアが行う
―気になる評価の仕組みについても聞かせてください。
金山: 評価面接は3ヶ月に1回のペースで行っています。成長って、実感できたほうがいいと思うんですよ。そのためには何かしら定量化して比較する必要があります。例えば、走るのが速くなったと思っていても、実際にタイムを測ってみないと本当のところはわからないじゃないですか、それと一緒で。もちろん実感せずに成長してることはありますけどね。
だから3ヶ月に1回、その人がやったことを全部棚卸しして上長と一緒に整理し、それを自分やマネージャーに上げてフィードバックするといったことをずっとやっていて、それは成長を支える仕組みのひとつにはなっているかなと。
やったことを見える化するので、明らかに半年前と違っていることがわかるんですよね。当然そうであれば評価もしていきますし、社内の評価に反映しています。
―評価する上長が必ずしも同じ職種の人ではなかったりしますよね。VASILYではどうされているんですか?
金山: エンジニアの上長は必ずエンジニアが務めます。同様にデザイナーの上長はデザイナーです。職種ごとのチーム体制ということもありますが、違う職種の人に評価されるのってイヤじゃないですか。例えばギタリストの良し悪しを相撲取りが評価できないですよね?お互いプロであったとしても。ギタリストの評価はギタリストがすべきだなと。
インターネットの血が流れている人を求める
―最後に、金山さんがこれから一緒に働きたいと思う人物像について教えてください。
金山: これは常にそうなんですが、自分たちが大切にしているのは「学習」です。VASILYは、というかスタートアップ全てに共通すると思うのですが、失敗してきたことが多いというか、想定した仮説どおりにいかなかったことって多いと思います。ですが、大事なのはその失敗から何を学ぶかだと思っています。失敗から学びを得られる人と働きたいですね。
あとはもうひとつ、自分たちははインターネットの仕事をしているので、インターネットのサービスが好きであること。インターネットの血が流れている人が良いですね。
―インターネットの血が流れているか…。
金山: はい、それは絶対です。それに加えて、自分がプロジェクトリーダーを務めているスタートトゥデイ研究所に関しては「ファッションを数値化する」というミッションに共感してもらえるかを見ていますね。
―なるほど、本日はありがとうございました!