前CTO石橋利真氏が退任し、グリー、スマートニュースで活躍した渡部拓也氏を新CTOとして招聘したKaizen Platform, Inc.。体制変更で何が変わったのか。目指すエンジニア組織のあり方、プロダクトの方向性とは?新CTOの渡部氏、エンジニアの関口亮一氏、堀之内将人氏に話を聞いた。
新CTOが入って決めた新しいコンセプトでKaizen全体が変わった
Q:もういろんなメディアに出ていますが(笑)、渡部さんがCTOに就任した経緯を改めて簡単に教えてください。
渡部: 昨年7月下旬に、Co-founder/CTOの石橋が突然、「俺、CTOを辞めるわ」と話をしだしたそうです。当時別の会社にいた僕は、そのタイミングでグリー時代に一緒に働いていたことのあるプロダクト責任者の瀧野(諭吾氏)から「新しいCTOを探しているんだけど」と声をかけられました。
それから1週間くらい、毎日この会社に通っていろんな人と話をしました。そして、10月に正式に入社したという経緯です。公には今年2月にCTOに就任したことになっていますが、実際は入社と同時に新CTOとしての役割で働き始めています。発表できなかったのはそれからの4か月が非常にドタバタしていたからです。
関口: むしろ中にいる私からすると、まだ4か月しか経っていないんだ、という感じですね。
Q:それくらい濃密な時間だったということですね。CTOに就任してどんなことから始めたんですか?
渡部: 2016年の1年間は、Kaizen Platformとしてのものづくりの方向性を示せず、もがいていた時期でした。そのため、まずは方向性をはっきりさせるところから始めました。過去のしがらみを気にせずに「こうやればいいんじゃない?」みたいな感じで。
そうやって決まった新しいコンセプトをカスタマーに話すと、非常に反応がいいんです。現在はそのことに手応えを感じながら開発を進められています。
Q:その新しいコンセプトというのを聞いてもいいですか?
渡部: もちろんです!Kaizen Platformは創業時からA/Bテストのためのツールと同時に、クラウドソーシングでA/Bテストの改善案を作るグロースハッカーネットワークも構築、そしてその両者のマッチングを行なうプラットフォームサービスを提供してきました。
とはいえ、A/BテストだけではWebサイトの最適化に完全に振り切ることができず、ある意味中途半端になっていたのが、昨年まででした。だから新しいコンセプトは、「UI改善のプラットフォームになる」という方向に完全に振り切ったんです。
Q:具体的にはどういうことでしょうか?
渡部: 一つは、効果改善の対象範囲を広げていくこと。これまでは最終的な申し込みや会員登録に絞った改善を提供していたんですが、それでは興味関心を持ってサイトを訪れてきた人だけを相手にすることになり、先細りしてしまいます。なので、流入、流入してきた人たちへのサービスの訴求、その後の行動、という全ての範囲を改善の対象にしました。
もう一つは、そうやってサイト全体まで改善の対象を広げると、改善ポイントを見つけるのを全て人力でやっていては追いつかなくなります。なので、そのシステム化を図ります。当社のサービスはもともと問題解決には優れていましたが、問題発見は扱っていませんでした。サイト内の行動全てのログを収集し自動的に改善ポイントを見つけるシステムを、いま関口たちに開発してもらっているところです。
Q:その方向性はすぐに決まったんですか?
渡部: もちろん、突然ひらめいたわけではありません。私が社内のQiita:TeamにKaizenの強みがどこにあるのかについてつらつらと考えを書くと、メンバーからは「昔はこうだったんですよ」というリアクションがありました。そうやってコミュニケーションを重ねる中で、1個ずつ考えが整理されていった感じです。
それと併せて、CEOの須藤(憲司氏)や瀧野らと「3年後のKaizen Platformってどうなっていくんだっけ?」というような抽象度の高いビジョンの議論をしていくことで、より具体的なプロダクトの方向性を固めていきました。
堀之内: この話がある程度明確になってきたのが昨年の10月末だったと思います。11月にカスタマーに説明することで、この話が成功しそうな裏付けも得ることができた。最初は手運用で試行錯誤を重ね、プロダクトの方向性として固まったのが12月ごろ。実際に開発が始まったのは今年に入ってからですね。
いま、過去最高に社内のモチベーションが高まっている
Q:方向性が改めて示されたことで、社内の雰囲気や開発の仕方は変わりましたか?
関口: そうですね。今回のケースがこれまでと一番違うのは、カスタマーの反応がすでにある状態で開発ができていることです。「そんなに求められているんだったら、こっちも頑張って作るぞ!」と思えるというか。気持ちの盛り上がり方が全然違います。これまではどちらかというと、自分たちで「これはどうかなあ?」と考え試しながら作っていたので。
堀之内: カスタマーの担当者は「あれもやりたい、これもやりたい」ってどんどんアイデアを言ってくださるから、それを実現するエンジニアはヒーヒー言うくらい大変です(笑) でも本当に役に立つものを作っている実感があるから、みんな燃えていますね。
関口: 過去最高にモチベーションが上がってますね。
渡部: リモートワークの制限がなかったので、私が入社した時はすごく静かなオフィスで、人口密度が低いなという感想を抱いたんですが、最近は人が多いです。この間もミーティングルームが全部埋まっていて、フロアにもいくつかの人の集まりができて自然と議論が行われていました。いい感じにうるさいオフィスになってきています。
関口: エンジニア組織にヒエラルキーがなくて、フラットに話せるのはKaizenの特徴だと思います。僕が以前いたDeNAなど、大きな会社には雲の上の人のようなエンジニアがいて、新卒社員はビクビクしながら接するんだけど(笑)、そういうヒエラルキーがない。
もともと目的さえあれば集まって議論する下地はあったんですが、そこにはっきり方向性が示されてモチベーションが高まったことで、今のいい状態が生まれている気がします。
Q:エンジニアが直接カスタマーと接する機会も増えたとか?
関口: そうですね。以前はエンジニアは“ものを作る担当”という感じがあったんですが、今はもっとカスタマーのところに行って話した方がいいよね、と話しています。僕も何回か行ったことがありますが、反応の良さや要望があると、より出て行こうという気になりますね。
堀之内: 今その役割を担っているのがまさに前CTOの石橋なんですよ。彼はずっとそこをやりたかったのにできなかったから、今までモヤモヤしていたんですよね。今は大手のカスタマーのところに積極的に行き、技術的にできるできないをその場でジャッジして、要件を詰め、持って帰ってきて実際に作る、という形で活躍しています。
関口: 近くで見ていても非常に生き生きしていますよね。
Q:いい循環に入った感じですね。一方でエンジニアの中には技術を突き詰めることにモチベーションを感じる人もいると思うんですが、プロダクトをよくすることに燃えるメンバーが揃っているのはKaizenさんの特徴なんですか?
渡部: そう思いますね。私自身グリー、スマートニュースと渡り歩いてきて、それぞれに違ったカラーがありましたが、この会社は特に「社会に対してどんな価値を与えるのか」という視点を持った人が多いと感じます。逆に「俺の考える最強のアルゴリズムを作る!」みたいなところにこだわっている人はいないですね。
堀之内: 今までも「プロダクトに意識のあるメンバーを集めよう」という方針で採用していますしね。
関口: 僕自身の話でいえば、前職ではあまり強くプロダクトに関わることがなかったんです。チャンスはありましたが、自分の気持ちがプロダクトに向くことがなくて。だから今度転職する時はプロダクト自体に魅力を感じるところに行きたいと思い、それで選んだのがKaizenだったんです。
渡部: こう言うと、コードは残念なのだろうと誤解されることもありますが、全然そんなことはありません。むしろ入社してコードを見て、驚くほどきれいだなと思いました。各自のエンジニアとしてのプロフェッショナルなこだわりと、アウトプットへのこだわりというのが、いい感じで両立している会社なんじゃないでしょうか。
グリー、DeNA時代に感じた化学反応の予感がする
Q:採用関連のお話もありましたが、今後どういうメンバーに加わってもらいたいと思っていますか?
関口: プロダクト開発に燃える人、技術力の高い人というのはもちろんありますが、周りを巻き込んで気持ちを盛り上げてくれる人がいると、もっともっと楽しくなるんじゃないかなと思ってます。というのも、今のメンバーはいい意味でも悪い意味でも結構大人な人が揃っていて、物静かなところがあるので。
リモートワークで熱量を伝えることは難しいな、と日々感じているんです。隣に座っている人がゴリゴリ開発していれば自然と俺も頑張ろう!となりますが、リモートワークだとそれがないので。僕は自分が盛り上がっていることを折に触れて伝えるように工夫していますが、熱量を伝えるのってやっぱり得意な人とそうでない人がいるじゃないですか。だからそれが得意な人が入って撹拌してくれたら、もっともっと盛り上がるんじゃないかと期待しています。
渡部: 私は単純に自分よりすごい人を採用したいなって思いますね。すごいっていうのはもちろん、全てのパラメータにおいて今いるメンバーよりすごいってことじゃなく、「この部分では俺はかなわないな」と思えるような人。そういう人がいた方がサプライズがあるじゃないですか。「この人と仕事してたらこんなことができた!マジですげー」みたいな。
全て満遍なく優秀だけどサプライズがない人よりは、そういうサプライズを期待できる人がいい。極論、アプリなんて一人でだって作れちゃう時代に、チームで働く理由ってそこにある気がします。自分ができないことをひょいひょいとできちゃう奴がたくさんいる。だからこそ毎日会社へ行くのが楽しいって思えるんです。
Q:そういった新しいメンバーも巻き込んで、開発組織としてはどういう方向に進んでいきたいと考えていますか?
渡部: 私のいたグリーや関口のいたDeNAなんかがかつてそうだったのと同じように、異業種というか、純粋なネット企業出身じゃない人がいま、徐々に集まり始めています。それによる化学変化が今後起きるんじゃないかという予感があるんです。
あの頃のグリーってすごいカオスで、それこそネットの流儀を知らない人が入ってきて揉めて…とか色々ありましたが、その感じが面白くもありました。みんな生き生き働いてたと思うんです。僕の経験上、作り手がああいう感じで生き生きしていないと、いいプロダクトは作れない。僕らはミクシィさんから数えて何周目かのスタートアップですが、爆発的に伸びるには、やっぱりそういうミクスチャーが大事なんじゃないかなと思います。昨年一年間の苦しい時期を抜けて、これからそういうことがKaizenの中でも起こりそうな匂いがしているんですよ。
関口: 毎月のようにいろんな業界の人が入ってくるから、エンジニアとしても来月は誰が入ってくるんだろうって期待感がありますね。
渡部: この業界、グリーやDeNAがそうだった時代があった後、ネット業界以外から 人がガンガン入ってくる流れが一度落ち着いちゃったかなと感じています。だからあの時のカオスな感じをもう1回作りたいんですよね。いい方向に行くか悪い方向に行くかも分からない、事業を成長させるハイプレッシャーに押しつぶされそうになりながらも笑いあっている、Kaizen自体がそういうカオスな箱になっていけたらいいのかなと思っています。
Q:それはすごく魅力的な環境ですね。本日はありがとうございました!
全員: ありがとうございました!