公式な「責務」はありませんでした。チームに対して目標を与える役割が事実上不在で、誰かが自主的に人を束ねないとやることがない、各々が成長できないと思ったので私が自分自身の意図で率先して動きました。
その上で、目標は2つありました。
1. **属人化をなくす** - チームでは慢性的な属人化(特定の業務が特定の人物と 1:1 の関係にある)が続いており、休職中の人間に大量の呼び出しが発生するなどありえないレベルだったので、誰が抜けたとしても残りのメンバーで業務が問題なく進行できるようにしようと思いました。
2. **全員の成長機会を作る** - 上位からの目標が曖昧だったり、矛盾していたり、あるいはそもそもなかったりなどの理由で、チーム内では「我々は一体何のためにここにいるんだ?」という悩みが日課になっていました。一番若い人間としてこういう状態が嫌だったので、解消しようと思いました。
まず総合的に感じたことは、相手に何か与えるものを持っていないとマネジメントをすることがものすごく難しいということでした。
人に何かをしてほしければ、その人がそのことをやりたいと思うようにするのがベストだと良く言われます。これの一番シンプルな構造が「〇〇をしてくれたら、△△をあげるよ」という、いわゆるギブ&テイクの構造だと思うので、まず私が周りの人に何を与えられるかを考えました。「人に与えるもの」といえば、仕事で考えれば真っ先に思い浮かぶのは給料ですが、大学生アルバイトの私が大手企業の正社員の給料を上げる力なんて当然ありません。キャリヤ的に何かチャンスを与える力も当然ありません。そうなると、一般的な手法を捨てて個々の相手の求めているものをひたすらに探り、自分がどうすればそれを与えられるかを考えければならないと思いました。
もちろん、最初からそれができたわけではありません。例えば、最初は「属人化は良くないから、Aさんちょっと不慣れかもしれないけどここの開発をちょっとやってくれませんか?」と、今思うと無理に人にお願いしようとしたりしていました。そのときは、Aさんは喧嘩にならない程度に動いてくれましたが、本質的に業務に取り組むことはありませんでした。それを何回か繰り返してからようやく私が上述のように、「そもそもAさんは何を望んで仕事をしているのか?Aさんに何を与えれば積極的に動いてくれるのか?」と考えるようになりました。
詳細は割愛しますが、結果的にAさんは開発にはあまり興味なく、セキュリティ分析に猛烈な興味を持っていることがわかりました。そして今までの社歴(5年ほど)が、本人にとってほとんど意味を成さない時間で、大きな悩みになっていることがわかりました。それを知った上で、私は彼にこうアドバイスしました。
> セキュリティ分析に興味があるなら、この組織では多分あまりできないと思うから別のチームにアプローチをかけた方が良い。必要なら知り合いを紹介するよ!ただ、セキュリティ分析でも結局コードを読む必要があるから、移籍するまではめんどくさいけど基礎練だと思って開発を頑張った方が、将来自分の価値になると思う!
それからAさんはペアプロに参加したり、関係者と積極的にコミュニケーションを取ったりと、だいぶ動いてくれるようになりました。そして1〜2ヶ月後、別のチームに兼務が付き、半年の間セキュリティと開発を両方ともできる状況になりました。
5~6人程度の開発チーム。上記とは全く関係ありません。
上記とほぼ同じで、公式な「責務」はありませんでした。チームに対して目標を与える役割が事実上不在で、誰かが自主的に人を束ねないとやることがない、各々が成長できないと思ったので私が自分自身の意図で率先して動きました。
その上で、目標は(上記の2つを前提として)以下でした。
1. **メンバー間のコミュニケーションを開放する** - 全員が色々と思うことがちゃんとあり、 1on1 等ではそれを話すのに全体のミーティングでは何も言わないという状態に陥っていたので、それを解消してみんな自由に話せる雰囲気を作り出そうと思いました。
2. **チームとしての意思決定ができるようにする** - リーダー役が事実上不在という理由で、チームとしての意思決定が実質行われず、「一番うるさく言うやつの言いなりになる」というのが常だったので、ちゃんと根拠のある意思決定ができるようにしようと思いました。
上述の内容ももちろん当てはまる前提で、今度は「自分と他人」だけではなく「他人と他人」の関係も考えなければならないと思いました。なぜなら、メンバー同士のコミュニケーションに問題があるとはいえ新人の私よりお互いへの信頼の方が遥かに高く、一方でコミュニケーションのハードルも対私ではなく対お互いになっていたからです。
これを少し変わった目で見てみると、今度は「私がAさんを動かす」というより、「AさんとBさんが協力してお互いを動かす」ような状態を作ることが目標だと感じました。そしてそれを実現するには、AさんとBさんの人間関係にうまく介入して、ハードルを下げてあげることが必要だと思いました。
私自身、元々は人間関係が下手な人間なのでこういうことはとても辛いなと感じました。人様の人間関係に介入するということは、下手をすると二人にも不利を与え、二人とも仲悪くなるリスクがあり、ただでさえ新人の私なのにここで嫌われるともう居場所がないと思いながら動いていました。
一方で、人間関係が下手だからこそ、AさんとBさんそれぞれの気持ちが多少わかるのもありました。それぞれが求めていること、お互いに苦手だと感じていることなど、完璧ではなくとも少しは見えていました。
これに気づいた私は、二人の背中を押す役、いわば親みたいな存在になってあげようと思いました。それぞれと個別に話すときにお互いの苦手ポイントを聞いたり、例えばAさんに「Bさんは多分自分から発言するのが苦手だから、敢えて質問を振ってあげるといいよ」とアドバイスしたり、一方でBさんに「Bさんの意見は本当に的を射てるからもっと積極的に喋っていいと思うよ!私はもちろん、きっと他の人もそれをすごくありがたく見てると思うよ!」と褒めたりし始めました。
すると、数週間経っていつものチームの振り返りで B さんは突然こう言いました。
> 最近は仕事を自分で抱え込まずに、ちゃんと他の人に情報を共有して巻き込むように頑張ってます。ちょっとめんどくさいけど、その方が良いのかなと思って。
これを聞いたとき、私はめちゃうちゃニヤニヤしてた気がします。
AさんとBさんに限らず、他のメンバー同士の関係も意識して、同じように行動を促すように今でもしています。まだまだ道のりは長いですが、たった数週間でこれだけの改善が見れたので、今後も楽しみです。