2016年に人材業界へ入り、約10年にわたってITエンジニアの転職・採用に携わってきた高野心平。なかでもCTOやVPoE、EMなど、ハイレイヤーの転職を数多く手がけ、入社後の定着まで見据えて企業と求職者をつないできました。実際、これまで高野が転職を支援した人のうち、入社1年以内に離職した人はごくわずかです。
そんな高野は、「求職者が当初希望していた領域の外に、より合う企業が見つかることもある」と話します。入社後も活躍し続けられる企業を、どのように見極めているのでしょうか。ハイレイヤー転職ならではの難しさと、求職者とともに次のキャリアを考えるうえで大切にしていることを聞きました。
株式会社リブセンス
転職ドラフト事業部
高野 心平
スポーツ用品の小売、医療機器・物流業界での営業職を経て、2016年に人材業界へ。ITエンジニアに特化した転職・採用支援に従事し、ハイクラス層から開発のコアメンバーまで、幅広いエンジニアの転職をサポートしてきた。2026年、転職ドラフトに入社。
ハイレイヤーエンジニア転職こそ、「役職」よりも「役割」で考えるべき
──高野さんは、ハイレイヤーの転職に数多く携わってきたと伺いました。ハイレイヤーの転職ならではの難しさをどのように捉えていますか。
高野:一番難しいのは、入社してから経営陣や現場との不一致が出てきやすいことだと思います。
もちろん、面接で受けた印象と実際に入社してから見えてきた姿にギャップがあること自体は、ハイレイヤーに限った話ではないです。
ただ、ハイレイヤーになるほど、採用枠は限られてきますよね。特にCTOやVPoEは、基本的に一つの企業に一つの枠しかない。その中で役職や年収を維持しようとすると、選択肢はさらに少なくなります。結果的に、組織との相性よりも肩書や条件を優先した転職になりやすいんです。
そして特にCTOやVPoE、EMといったマネジメント職は、経営陣や現場とうまくやっていけるかどうかが、入社後の定着を大きく左右します。

──というと?
高野:そもそも経営陣との距離が近いので、馬が合わなければその影響を直接受けますよね。極端な例でいうと、上場を目指すと聞いて入社したのに、半年後にはバイアウトを目指す方針に変わることもある。それが自分の想定していた方向と違えば、やっぱり働き続けるのは難しくなります。
それに、メンバーをまとめる立場なので、現場との信頼関係を築けないと一気に働きづらくなるんです。そもそもマネジメントは、「信頼貯金」がないとできないじゃないですか。そんな中で、外部から新しくマネージャーとして入るわけです。こういうパラシュート人事だと、メンバーは少しでも「何か違う」と感じれば、新しい上司をネガティブに見やすくなります。
こうした事情で、転職を繰り返すハイレイヤーも実際にいます。しかも、組織の方針を決める立場だからこそ、うまくいかなかったときには組織全体に影響が出る。結局、求職者にとっても企業にとっても、不幸せな結果になりやすいんです。
──では、ハイレイヤーの方が転職を成功させるには、どうすればいいんでしょうか。
高野:私は「役職よりも役割で考える」ことが大切だと思っています。
先ほどお話ししたように、役職ありきで考えると、選択肢がさらに狭まって、組織との相性を十分に検討できなくなります。だからこそ、いったん役職は置いておいて、まず「自分は何が得意で、どの領域で活躍したいのか」を考える。その役割に合ったタイトルをあとからつければいいと思えれば、だいぶ視野は広がります。
たとえば、スタートアップでVPoEを務めていた方が、大企業へ転職するとします。その方が「組織マネジメントを極めたい」のであれば、EMというポジションもあり得るかもしれませんし、「技術を極めたい」という結論になったなら、ICとしてシニアエンジニアやプリンシパルといった選択肢も見えてきますよね。
──さらに組織との相性を見極めるのが大切だという話がありました。リファラルなら、実際に働いている人から内情を聞ける分、ミスマッチは防ぎやすそうですね。
高野:確かにリファラル自体は、転職の正攻法だと思っています。ただ、それですべてのミスマッチを防げるわけではなくて、実際にリファラルで入社しても組織になじめず、短期間で辞めてしまう方はいます。
どうしても、自分にとって都合の良い話にフォーカスして、イメージを膨らませやすいんですよね。花畑だと思って入ったら、その裏側に労働集約型の工場があって、ベルトコンベアが回っていた、みたいな感じです。
だからリファラルで入るなら、自分にとって都合の悪い側面まで意識して把握することが大切です。誘ってくれた人や仲の良い人だけではなく、自分とまったく接点のなかった人ともきちんと面接するなど、コミュニケーションを重ねたうえで判断した方がいいと思います。
求職者の原風景をたどり、本当に合う企業を見つける
──組織との相性を見極められるかが、入社後の定着を左右するというお話でした。そんな中、高野さんが前職で転職を支援した方の入社1年以内の離職率は、0.5%以下だったそうですね。求職者と企業の相性をどのように見極めてきたんでしょうか。
高野:私は、単なる転職理由だけではなく、「なぜエンジニアになったのか」という原風景から聞くようにしています。
たとえば、ある方にエンジニアになった理由を聞いたら、「ゲームが好きだったから」と返ってきました。でも私としては、「ゲームが好き」と「エンジニアになる」は、そのまま直結しないと思ったんですよ。別の原風景があるんじゃないかと思って、もう少し深掘りしていきました。
すると、その方は理系の大学に通っていて、ゲームが好きだったので、一度自分で作ってみようと思ったと話してくれたんです。ただ、作り方がわからないので、自分で調べながら覚えていった。その過程で、もともと調べて覚えること自体が好きだったと気づき、それを楽しめる仕事としてエンジニアを選んだ、という話が出てきました。ここまでわかると、「新しい技術を調べて身につけることにも抵抗がない方なのかな」「そうした環境に合うかもしれないな」と、少しずつ仮説を立てられますよね。
一方で、「それなら、なぜ最初からゲーム会社に入らなかったんですか」と聞いたら、「そこは現実的に考えました」と返ってきた。そこからは、「興味のあることに突っ走るというより、意外と安定志向なのかもしれない」「ある程度事業やプロダクトが成熟していて、開発体制や働き方が整っている企業の方が合う可能性もある」と推測できます。
──「ゲームが好き」という一言だけでは見えなかった、その方の考え方がわかってくるんですね。
高野:そうです。エンジニアに限らず、転職相談って「昔の自分に会いに行く」時間なんですよね。自分の思いや考えがどう変わってきたのかを振り返ってもらうことで、どんな企業が合うのかを考える手がかりが見えてきます。
だから、最初から「この業界の、このくらいの規模の企業で、このポジションに就きたい」と具体的な希望を持っている方にも、いきなり求人情報を渡すことはしません。もちろん、入り口として希望は聞きますが、それにそのまま乗るのではなく、いったん横に置く。「まずはあなたのことを知りたい。それがわからなければ、どんな求人が本当に合うのかもわかりません」とお伝えして、やはりまず原風景を聞くところから始めます。
──その後は、どのように企業を提案していくんでしょうか。
高野:「希望に沿っていて、本人にも合っていると思う企業」「希望には沿っているけれど、本人には合わないと思う企業」「希望には沿っていないけれど、本人には合っていると思う企業」というように、グラデーションをつけて提案します。私は「意思を持った企業提案」と呼んでいます。
私が原風景からイメージした企業ってあくまで仮説なので、本当に合うかどうかはわからないんですよね。だから、複数社を紹介して求職者と一緒に検証していくんです。
──あえて、求職者の希望に沿っていない企業も紹介するんですね。
高野:そうですね。実際に話を聞いてみないと、「こういう企業に転職したい」という本人の考えは、なかなか更新されないんですよ。いくつかの企業と話して比較することで、自分が何を大切にしているのかも、だんだん明確になっていくので、できるだけ食わず嫌いをせず、幅広く面談を受けてもらうようにしています。
実は、「最初の希望には沿っていなかったけれど、高野さんに合っていると言われた企業が、一番自分に合っていると思いました」と言われることが結構あるんです。「自分にはここが合う」という先入観だけでは見つからなかった企業に、出会ってもらえることもあるんだなと思います。
──求職者の視野を広げることで、本当に合う企業が見つかることもあると。
高野:ただ、決して押し売りのようなことはしません。
そもそも面談前に、本人に合わない可能性がある点がわかっていれば、きちんとお伝えします。たとえば、ドメインや技術は本人の希望に合っている一方で、意見をはっきり伝える社風が、その方の柔らかな性格には合わないかもしれないと思ったら、「コミュニケーションで少ししんどさを感じるかもしれないけれど、一度話を聞いてみませんか」と伝えるようなイメージです。
また、いくら私が「合う」と思っても、結局面談で本人が「合わない」と感じることもあります。「雰囲気は合いそうだったけれど、やっぱりドメインには関心を持てなかった」ということであれば、次はドメインの比重を上げて、別の企業を提案したりします。
企業の見えにくい実態まで調べ、メリットもリスクも伝える
──求職者に合う企業を提案するには、企業側についても深く知る必要があります。高野さんは、企業への理解をどのように深めてきたんでしょうか。
高野:本当に地道なやり方でしたね。最初はテレアポで、途中からはSNSなどを使って、自分から企業へアプローチしていきました。一緒に採用を進めた企業から別の企業を紹介していただくことも増えて、少しずつネットワークが広がっていったんです。
接点を持った企業とは、人事だけではなく、面談や面接を担当するエンジニアとも、できるだけ会話の頻度を増やしました。支援を始めたばかりの頃には、週1回ほどミーティングをして、開発組織の現状や課題、最近のトピックスなどを細かく聞いていましたね。理解が深まってきたら、定例の頻度を隔週、月1回と少しずつ減らしていくんですが、その間も電話やメッセンジャーでやり取りを続けて情報を更新していました。

──とはいえ、企業からそういった話を聞くだけで、実際にどんな人が合うかまでわかるものですか。
高野:正直、それだけでは難しいです。なので、何を話しているかだけではなく、話し方や実際の選考でどんな判断をするのかも見ています。
たとえば、個人情報を伏せた形で、候補になりそうな方のイメージをお伝えしたときの反応です。「この方は選考に進む」「この方は見送り」という違いがあったら、「技術力の差なのか、人柄や志向の違いなのか」「技術力と人柄なら、どちらをより重視しているのか」といったことを、企業との対話を通じて探っていきます。
CTOやVPoE、EM、テックリードなど、その企業で要職に就いている方のキャリアも、可能な限り可視化して判断材料にしますね。
SIerでの経験を持つ方が多ければ、「品質やプロセスを重視して、リスクを抑えながら手堅く開発を進める組織なのかもしれない」「Webサービス企業でスピード感のある開発に慣れてきた方とは、仕事の進め方に対する感覚が合わない可能性もあるな」とか。もちろん決めつけるわけではなくて、まずはそうした仮説を持って「実際のところはどうですか」とミーティングで聞きながら、企業側と認識をすり合わせていくんです。
──企業側も明確に言語化できていない判断軸を、実際の反応から探っていくんですね。
高野:そうですね。あと、その企業に知り合いがいれば、聞ける範囲で組織の雰囲気や働き方を聞くこともありますし。
どんな企業にも、実際に中で働いてみて初めてわかることがあるじゃないですか。そこまで理解したうえで提案した方が、求職者に対して責任を持てると思っています。私自身が求職者だったとしても、メリットだけでなくリスクまできちんと説明してくれる人から提案を受けたいですから。
関わった全員が笑顔で終われるように
──先ほど、「企業の中に知り合いがいれば」という話がありました。エンジニアの知り合いが多いんですか。
高野:そうなんです。私は求職者の方と中長期的に関係を築くタイプで、転職したあとも友人として付き合いが続くことが多くて。技術書同人誌博覧会(技術に関する同人誌の即売会)や、きのこカンファレンス(ITエンジニアが自身のキャリアや未来を描くヒントを得るための集まり)といったイベントに、運営スタッフとして参加するようになったのも、主催者との個人的なつながりがきっかけでした。

──仕事ではなく、プライベートで参加しているんですか。
高野:完全にプライベートです。エンジニアの方々のためのイベントなので、そこに私の仕事の事情を持ち込むのは違うなと思っていて。
運営はなかなか大変なんですが、いろいろな友人ができることが一番うれしいですね。社会人になってから仲良くなれる友人って、そもそも少ないじゃないですか。私としては、友人になった方がたまたまエンジニアだったというような感覚です。技術の話も聞いていて面白いですし。
──ということは、もともと技術に関心があったんですか。
高野:いや、それがまったくなんです。
実は人材業界に転職するとき、ITエンジニアに特化した企業を選んだのは、それまでの人生で自分から最も遠く、苦手な領域だったからなんですよね。当時はIT業界を「パソコン業界」と呼んでいたくらいなので、どれだけ疎かったかわかると思います(笑)。それでも、自分を厳しい環境に置いた方が、やり切ったときの達成感も大きいと思って、あえて選びました。
入社したあとは毎日、ITエンジニア向けの分厚い技術書を、通勤時間や休憩時間にもひたすら読み続けましたね。わからない単語しか出てこないので、一つひとつ意味を調べながら、とにかく言葉に触れて慣れようとしていました。
そこでインプットした知識を、企業や求職者とのコミュニケーションで実際に使いたいと思って、会社の想定よりも早い段階から、企業担当や候補者担当の仕事にも挑戦しました。それで、覚えたことを実際の会話の中で使いながら、少しずつ定着させていったんです。
──かなり前のめりだったんですね。
高野:最初は、苦手なことを克服するのが楽しかったんだと思うんですよね。ただ、その後もずっとこの仕事を続けてきた根底には、エンジニアや技術職の方へのリスペクトがあるのかなと。
朝早い電車で出社していたあるとき、ふと「電車も技術で動いているんだな」と思ったんですよ。帰りの電車で周りを見渡せば、スマートフォンでアプリを開いている人がいる。プラットフォームの自動販売機で商品が出てくる仕組みにも、技術が関わっている。「技術って、気づかないくらい社会に溶け込んでいるんだな」「エンジニアや技術職の方々が、自分たちの生活を支えてくれているんだな」と。
──その気づきが、尊敬の念につながっていったということですね。
高野:そうですね。だからこそ私も、エンジニアの方を真に支えられるエージェントでありたいと思っています。
正直、エージェントに対して不信感を持っている方もいると思うんです。「自分が商品だから、希望していない企業へ転職させられるんじゃないか」とか。実際、選考結果を伝えないまま、途中で連絡を断つエージェントもいますから。
でも、私は絶対にそんなことはしません。先ほどお伝えしたように、無理に転職させることはありませんし、選考結果はきちんと伝えて終わりをつくる。曖昧なままにせずに次へ進めるようにします。
それは私自身、エージェントという仕事が好きで、誇りを持っているからです。そうして初めて、お互いにリスペクトし合える関係を築けると思っています。
──最後に、高野さんがこれから実現したいことと、エージェントを利用した転職を考えている方へのメッセージをお願いします。
高野:私が目指しているのは本当にシンプルで、「関わったみなさんが笑顔で終われるように」ということだけです。求職者も、企業のみなさんも、そして私自身も、最後に「良かったね」と笑えるような体験にしたいと思っています。
次のキャリアに迷っている方もいるかもしれません。そんな方は、今すぐ転職するかどうかにかかわらず、まずはこれまでの歩みから一緒に振り返ってみましょう。自分が本当にしたいことは何なのかを一緒に棚卸ししていく中で、活躍できる環境が見えてくるはずです。

※WeWork 東京ポートシティ竹芝の共用エリアで撮影した写真が含まれます
(取材・文/山田 奈緒美)
