12億人を解析する『KARTE』開発チームがアルゴリズムや数字よりも「人」の個性と直感にこだわる理由

2017-10-11 17:00

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株式会社プレイドの主力サービス『KARTE』は、Webサイトの訪問者をリアルタイムで解析・可視化し、そのデータをもとにあらゆるアクションを可能にするプロダクトだ。

サービスの開始から2年で累計12億人を解析し、GoogleCloudPlatformの日本イベントにおいても基調講演に登壇。KIRINや資生堂など大手企業が次々に採用していると聞くと、流行りのマーケティングオートメーションサービスかと思いきや、実現しようとしている世界観はむしろその真逆。

機械化や自動化という時代の流れに竿を刺し、「人」が持つセンスや直感、頭の良さをドライブさせて、サイト訪問者一人ひとりのユーザー体験を最大化することを目指しているという。

今回はプレイドのCTO・柴山さんと、転職ドラフトでプレイドに入社した片居木さんに、くわしくお話を聞いてきました。

柴山 直樹:プレイド取締役CTO。東京大学工学部にて神経科学、同大学院にて分散環境における機械学習の研究に従事。2009年未踏本体採択。2013年同大学院博士をドロップアウトし、CTOとして参画。

片居木 誠:東京工業大学大学院を修了し、新卒でヤフーに入社。社内のアクセス解析プロダクトの開発に従事したのち、DMPサービスの立ち上げに参加。2017年4月よりプレイドに参画。

『KARTE』の目的はデータを使ったユーザーの顧客体験向上にある

ー『KARTE』のことをよくあるマーケティングオートメーションのサービスだと思っていた人が、面接などの場でプレイドさんが本当に目指しているところを聞いて、俄然興味を抱くということがあるそうですね。実際にはどんなことをやろうとしているんですか?

柴山: 『KARTE』を説明する前段として、ぼくたちは、あらゆるサイト上のユーザーをデータベース化して、目の前にいると感じられるようにすることで、本来のあるべきコミュニケーションをインターネットでも実現したいと考えています。

それは、もともと静的ファイル送信のプロトコルから始まったインターネットが今やコミュニケーションツールへと進化する中で、インターネット自体が未だに相手をよく知ることのできない仕様であることに、ある種のバグというか、課題を感じているからです。その入り口として『KARTE』を開発し、クライアントに提供しています。

ーなるほど、サービスの着想はすごく深いところからきているのですね。『KARTE』ではどうやってその問題を解決しようとしているのでしょうか?

柴山: サイトに来ている相手を「知る・合わせる」を同時に、シンプルに実現するのが『KARTE』のコンセプトです。一番の問題はさっき伝えたようにインターネット上で「ユーザーが見えていないこと」にあると思っています。

「どんな人が来たのか」「どんな雰囲気で過ごしているのか」何も見えていないままにコミュニケーションをするというのは、石に話しかけているようなもので、その結果としてバナー配信や一斉配信のメルマガといった「数字の塊に対する画一的なコミュニケーション」がなされているように思います。

それは一人ひとりのエンドユーザーから見ても、決して心高まる体験とはならないはずです。そこで、まずはサイト訪問者一人ひとりを可視化できるようにしました。どういう人が来たのか、セグメントしたデータと紐付けながらビジュアライズしていくんです。

ー実際の管理画面を見ると、ユーザー一人一人にアイコンがあるというのも人間の存在を感じさせますね。

『KARTE』が大事にしてるのは「人感」。データを数字や情報の羅列にせず、人として認識してもらえるような画面づくりを心がけています。UUやPVではなく「人」として認識するからこそ、『KARTE』を使う企業の担当者は、より想像力を働かせることができるんです。

マーケティング活動も数字だけを追う画一的なものから、個人の体験を良くするものに変わってくると思うんです。toB向けのプロダクトではあるんですが、データをエンドユーザーの体験価値向上に活かすというのがとても大切ですね。

※『KARTE』の管理画面イメージ

ーエンドユーザー視点は、どのようなかたちで『KARTE』に反映されているのでしょう?

柴山: 人間って本来的に多種多様な生きものですよね。であれば、コミュニケーションする上でも、その形式やタイミングには多様性を持たせなければならないと思います。しかし多くは画一的なテンプレになっている。これって、コミュニケーションを実現するためのツールに「自由度」がないから起こる問題ではないかと思うんです。

人間の発想力って、もっと豊かなはず。でもツールに自由度がなければ、その力を十分に発揮することはできません。ぼくたちがつくるプロダクトでは、発想力を制限せず、思ったまま表現できるよう意識しています。高い拡張性を備え、いろんなサービスと連携することができるのも、その一例。自由度を高くすればするほど、開発は難しくなってしまうんですが。

ー自由度の高さは具体的にどんな機能に反映されているのでしょう?

柴山: KARTEでは、単純なポップアップを配信をすることもできますが、アプリケーションを開発するかのように機能を持ったウィジェットを開発することもできますし、サイト自体の挙動を変えることもできます。

また、サービスのコアをプラガブルに設計することでオンサイトに限らず様々な面でコミュニケーションを可能に接客をすることができるようにしているのも自由度の高さの一つです。LINEやSMSなどサイト外コミュニケーションもできますし、サイトの編集に近いことも可能です。レコメンドエンジンや他MAツールと組み合わせて使うこともできるので、ユーザー企業によって使い方は本当に多種多様になっています。「こんなこともできるんだ」と『KARTE』をハックするように使ってもらえているのは嬉しいですね。

ーなるほど、ありがとうございます!転職ドラフトがきっかけでプレイドさんにご入社された片居木さんは、こうした考え方に共感されての決意だったのでしょうか?

片居木: はい、そうですね。ぼくの前職は国内有数の大手企業で、主に広告のデータ解析をしていました。そこで感じていたのが、「より多くの人たちに効率よくアプローチしていくにはどうしたらいいか」ということを追い求める世界への疑問でした。それではエンドユーザーは幸せにならない気がしたんです。

そんな中で、プレイドが「数字ではなく個人を見る」ことを打ち出しているのは特徴的だと思いましたし、自分が抱えていた問題意識と一致しているなと感じました。人の持つ感覚より数字のみを優先するという姿勢は、Web広告のイメージが悪くなる一因ではないでしょうか。その現状を変えたいという思いが自分にはありました。

アルゴリズムを研究し続けたがゆえに、見えた限界

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ー柴山さんは大学時代、機械学習の研究をしていたと伺いました。当時研究されていたことは、『KARTE』にどうつながっているのでしょうか?

柴山: 例えば、Webサイトを訪れたお客さまとコミュニケーションをするのに、訪問から10秒経ってからではもう遅いですよね。だからこのプロダクトの解析基盤のキモは、ユーザーをどれだけ早くさばけるかにあるんです。

しかし、従来の解析系プロダクトには、幅広い方法ですぐに結果を返せるものがあまりありませんでした。ぼくは元々は脳科学を専攻していて、そこからデータ処理系の機械学習へと進んだんですが、機械学習の中でも、分散型の計算フレームワークを長くやってきたので、そこで学んだ知識をコアエンジンをつくるのに活かしています。

一方で、アルゴリズムについて好きで学んできた人間であるゆえに、その限界も肌で感じているんです。機械学習をやっていたのにはもともと「人間の脳を作りたい」という思いがあったんですが、今のAIブームを見ていても、なかなかそこまではたどり着くのは難しいな、と。

機械学習って、ルールの中でどうするかについては強い力を発揮することができます。しかしルール自体をつくったり、よりメタな学習をするのには、まだまだはるかに人間の脳の方が勝っています。自動化とか機械化にはどうしても限界があり、なかなか人間の脳に勝てていないというのが現状ではないでしょうか。

ーたしかに、プロダクトづくりにもそういった思想は表れていると感じますね。

片居木: こういった思想のプロダクトをつくっていて考えるのは、人工知能は人工知能ですばらしいのですが、結局はアルゴリズムでできているにすぎないということ。数学的に記述できて、ふるまいがプログラミングできる範囲に限られているということです。その点、人間の脳には、少なくとも現在のアルゴリズムでは記述できていない箇所がある。そこには大きな可能性がありそうですよね。

ー片居木さんには究極的には「コンピュータ上に人間を再現したい」という夢があると聞いたんですが、どういうことでしょうか?

片居木: ぼくは人工知能をより賢くするのではなく、人間を賢くする方を突き詰めていきたいと思っているんです。人間の脳って結局は電気信号ですから、それをコンピュータ上に移し、その上で人間同士がコミュニケーションすることだって究極的には可能なはず。情報の齟齬が減って、まったく新しいコミュニケーション手法が生まれるかもしれません。

ーまさにSFの世界ですね。

片居木: はい。それを人工知能にやってもらうのではなく、人間が自分でできる、人間の能力を拡張するような世界を作りたいと思っているんです。……っていうのを実現するのが最終目的で、今はその前段階のところ。そこにたどり着くために、人間をいかに賢くするか、みたいなところができるプロダクトを作っていると思ってやっています。

ーかなり尖った発想のようにも聞こえますが、根底に人間に期待するところが大きいというのは、どうやらプレイドのエンジニアに共通したところだというのがわかった気がします。

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組織としてもプロダクトとしても、大事にしているのは「世界に価値観を押し付ける」こと

ープレイドに入社されて、仕事のやり方について変化はありましたか?

片居木: ベンチャーはどこも同じかもしれないですけど、「何をやれ」ということを誰も言ってこないんですよね。前職は大きな会社だったこともあり、方針がきっちりしていて、それから外れるものは「良くないこと」といった空気感がありました。もちろんプレイドにも方針はありますが、現在は事業のフェーズ的にもそれが本当に正解かどうか誰にもわからないんですよね。最初はそういった違いに戸惑いましたが、慣れてきた今では自分で考えてできるのが楽しいですね。

柴山: 自主性を重んじるのもそうですし、会社としても開発チームとしても「世界に価値観を押し付ける」をキーワードにしているんですよ。

ー価値観を押し付ける?どういうことでしょう?

柴山: 個人やチームが徹底的に考え抜いて生み出した機能やサービスなら、それを責任持って世の中に出す、押し付ける。それが許容された組織であり、プロダクトであろうということです。

片居木: だからだと思うんですが、「こうすべき」という自分なりの理想を、全員が持っていると感じるんですよ。それぞれが理想の実現のために動いていて、結果としてそれが仲間のためにもなっている。そんな環境であるということも、楽しく仕事ができている理由のひとつですね。他人がやりたいことを実現するだけだとつまらないし、自分がやりたいことを実現するだけでも組織としては不健全。それがうまく両立できていると感じます。

ーなぜ個人の価値観を重んじるやり方を取っているのか、もう少し詳しく聞かせてください。

柴山: 一般的にはファクトやロジックを積み重ねたり、数字を追いかけたりしながらやることを決めるのが仕事のやり方かもしれないですが、それよりも「人間の直感はすごい!」と思っているところがあります。経験則などに基づくアバウト且つ意外と正しい情報が頭の中にあって、そこから思いついたりするものが直感だと思うんですが、それを大切にして欲しいという気持ちがあるんです。これは、先ほど話したサービスにも通じる話で。サービスを使っているクライアントさんにも直感を大切にして欲しいから、自由度の高いサービスを目指しているということ。

それと同じで、会社のメンバーだってみんながクリエイティブな部分を持っているものだと思っているので、それに従って仕事をしてもらいたいという気持ちが根底にあります。

ー自律的な組織を動かすには「ルールづくり」が重要になりそうです。プレイドではルールの敷き方をどう考えているのでしょうか?

柴山: じつは、仕事を行う上でのルールはとても少ないんです。人の集まる組織ですから、どうしても問題は起きます。でも、その問題を解決するためにまるっとカバーできる大きさのルールをつくってしまうと、いつの間にかルールに首を絞められるようになってしまうんです。だからルールをひとつでも追加したらおしまいだ、と思うようにしています。

片居木: この話はさっき言った、「個人個人が自分の理想を追って仕事をする」ということにつながってると思います。大きな目標さえ共有できていれば、日々の働き方は個人個人で、という状況が作れるはず。そうすれば細かいコミュニケーションを抜きにしても、最終的にいいものができるはずです。実際、普段仕事をする中でもそういう手応えがあります。

ー数字で一括りにすることを良しとしない。ルールではなく個人を尊重する。お話を聞いていて、プレイドには一人ひとりを重んじる一貫した姿勢があるのかなと感じました。最後に柴山さんは、近い未来にどんなことを成し遂げていこうと考えていらっしゃいますか?

柴山: 『KARTE』のコンセプトをもう一段階上げたいですね。現状はまだ「ユーザーのことがわかる」程度で止まっているので、これをもっとエッジの効いた形で「強烈にわかる!」というところまで引き上げたい。

その先にあるコミュニケーションについても、「息を吸うようにコミュニケーションできる」というか、頭の中で思ったままそれができるレベルにしたいと思ってます。ここに共感してもらえる人は、ぜひ当社で一緒に仕事ができたらうれしいですね。

(文:鈴木 陸夫)

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